日経ホームビルダーは、住宅の新築やリフォームで発生しがちな顧客からのクレームの内容を知ることで得られる教訓を、「クレームに学ぶ」として連載しています。ここでは、2011年10月号に掲載した内容の一部を紹介します。
戸建て住宅を新築する敷地で、工務店のA社の社員と下請けの職人が地鎮祭の準備をしていた。建て主はどんな仕事をしている人かと近隣住民に尋ねられた職人は、「お医者さんですよ」と答えた。
建て主のBさんは少し離れた所にいて、この会話を聞いた。近隣の人に職業を知られたくなかったので「顧客の個人情報を第三者に漏らすとは」と怒り、「個人情報の管理の方針を文書で確認したい」とA社に要求した。
個人情報保護法は事業者に対し、顧客の個人情報を取得したら何のために利用するかを顧客に知らせることや、そのデータを第三者に渡す場合は原則として顧客の同意を得ることなどを義務付けている。5000件を超える個人情報を持つ事業者が対象で、年間の新築棟数が20棟程度のA社は該当しない。しかし、国土交通省は、対象外の事業者も同法の順守に努めるよう2004年の告示1500号で定めた。
同法の存在は消費者にも浸透して、事業者が顧客の個人情報を厳重に管理するのは当然とする考え方を広めた。BさんはA社が同法を知っているか確認したかった。
A社は「顧客の個人情報はみだりに口外しません」といった簡略な誓約書をつくってBさんに渡した。情報を利用する目的の通知や第三者への伝達の制限など、個人情報保護法に対する理解を裏付ける項目がなかったため、Bさんは不信感を強めた。A社を紹介したマッチングサービス会社に連絡して、施工途中で契約を解除。別の工務店と契約し直した。
職人も「第三者」
工務店などが個人情報保護法を理解する際には、職人や協力会社の位置付けにも注意したい。家づくりの仲間ではあっても、契約関係のない建て主から見れば第三者だ。マッチングサービス会社の担当者によると、Bさんは自分の職業が近隣住民に知られたことだけでなく、A社が無断で職人に教えたことについても怒っていた。
「Bさんの個人情報に対する敏感さは、医師として患者の個人情報の扱いに注意を払っているせいもあるだろうが、現代の消費者として特殊ではないだろう」と担当者は警鐘を鳴らしている。
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