ここからは職種別、仕事の課題別に数字の活用法を見ていく。最初のテーマは、いま流行り(?)の「値下げ」。マーケティング戦略に関わる問題だ。
不動産から食料、衣料、電化製品と、値下げラッシュが続いている。しかし、「戦略的」に行われているかというと疑問だ。デフレ風潮のなかで、「他社が下げたから……」「とにかく在庫を一掃したい!」と、ヤケクソ気味(!)に値下げに踏み切る会社も多いのではないか。
大前提として、会社が低価格戦略をとる背景には、販売単価を下げることで、販売数量を増やし儲けを高める狙いがある。よって、値下げを敢行するには、いくら販売数量を増やしたら儲けが出るのか。値下げ率と販売数をめぐる損益分岐点をきちんと定めなければならない。
では、ここでひとつお尋ねしたい。「ある製品を10%値下げした場合、販売量をどれだけ増やせばトントンになるか?」――自信満々に「単価を10%下げるのなら、販売量は10%増やせばOK」と答えた人。残念ながら大間違いだ。
ここには2つのミスが存在する。ひとつは掛け算の間違い。売り上げは単価×数量の積なので、単価が10%ダウンして0.9、数量を10%増として1.1で計算してみる。答えは0.99。もともとの売り上げの99%にしかならないことがわかる。値下げは同率の販売増で補えないのだ。もうひとつの間違いはもっと深刻。売り上げに連動して増えるコストの存在が抜け落ちていることだ。
会社のコストは、大きく分けて2タイプある。売り上げに比例して増える変動費と売り上げにかかわらず発生する固定費だ。前者の代表選手は原材料費。後者には店舗賃貸料、人件費などがある。
もし、値下げをして売り上げが上がったとしても、販売量が増えた分、変動費(原材料費)もアップする。値下げをして儲けを出すには、変動費増加分のコストも考え合わせて、販売量を設定しなければならないわけだ。
では、最初の質問に戻ろう。10%値下げをしたら、販売量をどれだけ増やさなければならないのか。図6は値下げ率と売り上げに対する変動費の比率(値下げ前)から、「値下げシミュレーション」をしたものだ。たとえば、先の商品の変動費の割合を60%とする。値下げ率10%と変動費比率60%がクロスしたところを見ると、34%が値下げ後の販売数量増の目標となる。この損益分岐点を超えない限り、利益は出ない。販売量を3割増やすのは大変だ。販売や製造の人員にかかるプレッシャーも増大する。
図6を見てお気づきかと思うが、変動費比率が低い商品のほうが値下げ余力がある。以前、マクドナルドは210円から100円へとハンバーガーの値下げを敢行したが、それを可能にしたのは原材料費(変動費)の低さだった。
もちろん変動費比率が低いだけではなく、「値下げによって販売数量が大幅に増加する」というシナリオが成立しない限り、値下げ戦略は成功しない。しかも、値下げをしても、すぐに他社に追随されることを考えれば、販売数量を伸ばすのが困難なことは容易に想像がつく。
実際、経済が右肩上がりの時代と違って、値下げ戦略の有効性は薄れている。値下げをしても今さら新鮮味がないうえ、消費低迷下、量産で固定費を低くする「量産効果」が期待しにくいからだ。むしろ、付加価値の高い商品を開発し、価格を高く設定する――そんなブランド戦略のほうが、消費者にも新鮮で、社員の士気も上がるのではないだろうか。
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