役に立たないバリアフリー住宅(2) / 日経BP

日経ホームビルダー9月号では高齢者の自立を支える住宅の在り方を特集にした。その抜粋を3回シリーズで伝える。第2回は3世帯で暮らす作業療法士の住宅の工夫だ。


 祖父母と母との同居をきっかけに、三世帯住宅を建てた斎藤宏樹さんは、老人保健施設で作業療法士(OT)として働いている。仕事柄、手すりの設置などのバリアフリー改修を助言することも少なくない。

 そうした経験を生かして、歩行器で移動する祖母、外ではつえを使う祖父、腰痛持ちの母、健常な斎藤さん世帯が、自宅で長く自立して暮らせ、介助の負担が軽減できるようにと考えたのが斎藤邸だ。斎藤さんが基本的な考え方を示し、サークルホーム(仙台市)が設計・施工、両者を仲介したNPOハウジングネットコンシェルジュ(同)が打ち合わせなどに協力した。

 祖父母と母が使う1階の工夫の一つは、祖父母の寝室とリビングの間仕切りを壁に引き込める3連の大きな引き戸としたことだ。祖父母が意識することなく見守れるようにと考えた。引き戸を開ければ視線が通り、閉めればプライバシーを確保できる。

 

(写真:日澤暢宏)
(写真:日澤暢宏)

 

(写真:日澤暢宏)
(写真:日澤暢宏)

 

(資料:日経ホームビルダー)
(資料:日経ホームビルダー)

 

 

 寝室と門扉をつなぐ動線を直線に

 トイレの位置にも工夫をした。LDKに隣接し、寝室から遠くならない程度の場所にした。寝室に閉じこもらせないようにするほか、リハビリのために歩く機会をつくる、祖父母がトイレに行ったことを母が気付けるようにする──などの効果を狙っている。将来、祖父母がトイレまで1人で行けなくなった場合は、寝室にトイレを設ける予定だ。

  寝室と外とのつながりも重視した。寝室の掃き出し窓は車椅子や介護サービスが必要になったときの玄関になる。外出するときは掃き出し窓にスロープを後付けして、部屋から出入りする。庭に出てから道路までもスムーズに移動できるよう、寝室と門扉をつなぐ動線が直線になるようにした。

 こうした斎藤さんの提案についてサークルホームの池上和代さんは、「バリアフリーの勉強はしていたが、人それぞれ状況や考え方が異なり、教科書通りではないことが多数あるとわかった」と話す。 

(写真:日澤暢宏)
(写真:日澤暢宏)

 

(写真:日澤暢宏)
(写真:日澤暢宏)

 

(写真:日澤暢宏)
(写真:日澤暢宏)

 

(写真:日澤暢宏)
(写真:日澤暢宏)

 

(写真:日澤暢宏)
(写真:日澤暢宏)

 

(写真:日澤暢宏)
(写真:日澤暢宏)

 

【概要】
敷地面積:323.49m2
延床面積:195.42m2
1階114.27m2、2階81.15m2
工事費:3045万円
身体状況:祖母は要支援で歩行器を必要とする、祖父は脳梗塞による軽い後遺症があり外ではつえを使用身体状態を高齢者に聞くには

 斎藤さんはOTとして、障害を抱えた人から不自由な身体の状態や日常動作を聞き取ることを仕事にしている。そこで、本人に面と向かって聞きにくい身体の状態などについて訊ねるコツを聞いたのが下の質問例だ。

 よく使う一例が「不便なことはありますか」「どうすると一番痛いですか」という聞き方だ。「いきなりバリアフリーに対する要望を聞いたり、動作をするよう求めたりすると高齢者は戸惑うことがある」と斎藤さんは話す。

<身体状況を把握するための質問例>

●バリアフリーの要望を知りたいときは「住まいで何かお困りですか」「不便なことはありますか?」。要望をしゃくし定規に聞いてもなかなか答えは出てこない
●動作確認したいときは「どうすると一番痛いですか?」。いきなり「やってみてください」と言うと相手を戸惑わせることも
●排せつや入浴など人に見せたくない動作を確認したいときは、「こうですか?」「違いますか?」と自分で実演して見せる。相手の羞恥心を緩和する配慮が必要
●動作の見逃しや誤解を防ぐために、「○○○○ということですか?」と言葉に出して確認する。言葉にしながら実演するとなおいい

※斎藤宏樹さんとサークルホームの池上和代さん、ハウジングネットコンシェルジュの佐々木孝さんに聞いた内容をまとめた

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