断熱・気密を高めたほうが住宅は「開く」 / 日経アーキテクチュア

住宅の環境設計に挑む設計者が増えてきた。しかし、戸建て住宅では、設備や環境の専門家が設計に加わることは少ない。設計者各人が考案したエコデザインは、環境学の専門家の目にはどう映るのか。宿谷昌則・東京都市大学教授に聞いた。

──住宅分野でのCO2排出抑制が急がれるが、建築設計者が設計した最近の住宅を見て感じることは?

宿谷 環境性能と意匠とが、うまく調和した住宅が少ない。全般に、環境性能を追求する設計者は、意匠があまり上手ではない。逆に、意匠計画を重んじる設計者は、環境に対する認識が甘かったり、人によっては無関心だったりする。

 双方のバランスがとれた住宅をつくれる設計者は非常に少なく、全体としては、むしろ両者のかい離が進んでいるように映る。

──高断熱・高気密にアレルギー反応を示す設計者が少なくないように感じるが…

宿谷 設計者のなかには、「断熱や気密を高めると、息苦しくなる。住宅はもっと、外部に開かれているほうがいい」という人がいる。だが、そこには矛盾がある。実は、断熱・気密を確保するから、住宅を開けるようになるのに、なかなか理解されない。

──断熱・気密が高いほうが、開放的な家になるわけは?

宿谷 これは、設計者が最近、関心を寄せ始めている「輻射熱(放射熱)」の利用と密接にかかわる話になる。

 例えば、真冬に部屋を掃除するとき、窓を全開にして空気を入れ換えたとする。その部屋が、エアコンで暖房していた場合、窓を閉めた後もなかなか暖まらない。それに対して、輻射熱で暖まっていた部屋は、窓を閉めれば、またすぐに暖かくなる。

──その違いは、どこに?

宿谷 エアコンが、空気自体を暖めたり、冷やしたりするのと違って、輻射熱は、室内の床や壁、天井が発する熱によって、暖かさや涼しさを感じる。床や壁の表面温度というのは、すぐに上がったり、下がったりしないので、少しくらい窓を開閉しても影響を受けにくい。

 つまり、輻射熱の利用のカギは、室内の表面温度の制御にあるのだが、そこで不可欠なのが、断熱・気密の確保だ。断熱・気密性が低いと、室内の表面温度が、常に外部環境の影響を受けてしまい、うまくコントロールできないからだ。

 断熱・気密を確保して、輻射熱を利用すれば、室内環境が外部環境に影響されにくくなり、閉じても開いても快適で健全で、しかも少ないエネルギーで生活できる。

──昨今の高断熱・高気密化は、国が掲げるCO2排出削減目標という側面が、強く打ち出されすぎてはいないか?

宿谷 住宅の基本性能を上げる主目的が、CO2削減ではいけないと思う。それ以前に、生物としての人間の身体を健全に保つことが大切だ。その意味で、設計者は、「住宅は身体の延長」ととらえて、環境設計に取り組んでほしい。

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