車道を蛇行させて自動車のスピードを落とし、歩行者との共存を目指す――。オランダで「ボンエルフ」と呼ぶ歩車共存道路の概念が提唱されたのは1970年代のこと。日本でも「コミュニティー道路」の名前で、一部の住宅地や商店街などに導入されている。車中心だった道路を歩行者中心の道路に変えて、まちを活性化する試みだ。
歩車共存道路は、歩道と車道との間にある縁石や段差をなくすなどして、歩行者が道路を快適に歩けるようにする。逆に、車のドライバーにとって運転しづらくなるような障害を設ける。例えば、道路の左右交互に植栽のプランターを置いて車道を蛇行させる方法や、路面の一部をかまぼこ状に盛り上げて段差を付ける方法などがある。
ところが、現実はなかなか理想通りにならないものだ。筆者は先日、車だけでなく歩行者にとっても通りづらい道路を発見した。
場所は、さいたま市のJR大宮駅から徒歩数分の距離にある一の宮通り。歩行者が快適に歩けるように意図してつくったと思われる道路だが、歩道の真ん中に電柱や街灯が乱立する。その結果、車だけでなく歩行者までも蛇行して通らなければならない状態となっていた。
市は「美しいまち並み」と認識
さいたま市北部建設事務所によると、一の宮通りの車道を蛇行させるなどの工事を実施したのは、およそ20年前のこと。2003年には、沿道の商店会が街灯やプランターなどをオレンジ色に塗装して、通りの通称を「オレンジロード」と命名した。オレンジがチームカラーである地元のプロサッカークラブ「大宮アルディージャ」を応援するためだ。
こうした経緯を踏まえ、市は04年1月にまとめた環境基本計画のなかで、一の宮通りの状況を以下のように取り上げている。
まず、「歩行者のためのバリアフリーやアメニティーに配慮したコミュニティー道路」だと評価。次に、「美しいまち並みや特色ある地域景観が形成されてきている」と分析する。
残念ながら、筆者は歩道の真ん中に電柱が立つ一の宮通りを「美しいまち並み」だと表現できる自信はない。念のため、電線を地中化するなどして電柱を撤去する計画があるのかどうか市に尋ねたところ、「現時点でそうした計画や予算はない」(市北部建設事務所)という答えが返ってきた。
何をもって美しいとするかの基準は人それぞれ。ここで伝えたいのは、歩車共存道路という理想を目指して整備した一の宮通りの現実の姿だ。同様の道路は全国にたくさん存在する。
財政が厳しい国や自治体に頼るのは限界がある。一の宮通りでは現在、商店会とサッカークラブが共同で、まちの清掃を呼び掛ける活動などを展開。商店街の活性化に取り組んでいる。こうした取り組みが奏功して、商店街にはクラブショップや古着店、美容室といった若者向けの店舗が並び始めている。