立ちソバ屋で会計センスを磨こう / プレジデント

食欲の秋は新ソバの季節でもある。サラリーマンの町として知られる東京・神田は、立ち食いソバ屋の激戦地の1つに数えられている。JRの駅の構内に2軒、その周辺には7、8軒はあるだろうか。少しでもお小遣いを節約しようと、店内ではスーツ姿のビジネスマンが今日もソバをすすり込む。

いまから30年近く前、私が小学校6年生の頃のかけソバは1杯・90円だった。なぜ、そんなことを覚えているかというと、無類のソバ好きだから。それゆえ打ち合わせなどで神田に寄ると、そんなソバ屋の暖簾をついくぐってしまう。いまや、かけソバは300円前後。3倍を超える物価の上昇にふと時代の流れを感じ、ノスタルジックな気分にひたりながら、器のなかのソバをたぐり寄せる。

でも、よく見ると、大勢のサラリーマンが行き交う同じ好立地にありながら、繁盛していそうな店と、そうでもない店とに分かれていることがわかってくる。

たとえば、神田駅の東口から歩いて1分ほどのところにある「元祖 天玉ソバ」を売り物にしているお店。広さは厨房を含めて5坪ほど。昼の時間帯ともなると、L字型のカウンターに向かって、押し合いへし合いしながら10人ほどが肩を並べ、店の外では「早く食べろよ」といいたげな怒り目の客が列をなしている。

実は私は立ち食いソバ屋に入ると、店の大きさだとか、客のキャパシティだとかに自然と目が向いてしまう。そして、箸を口元に運びつつ横目を使って、1人の客が店に入ってから出るまでの時間を測り始める。たったそれだけで店が儲かっているかどうかわかり、いつのまにか習い性になってしまったのだ。

大切なのは、「店舗面積」「客のキャパ」「1人当たりの在店時間」の3つだけ。細かいことには一切こだわらない。

天玉ソバの店のキャパは10人で、在店時間は約6分。すると1時間当たりの総客数は100人(以下、数式参照)。かけソバ300円を平均単価とすれば、1時間当たりの売上高は3万円だ。でも、昼の混雑が1日中続くわけではない。そこで1日の売上高はざっくりピーク時の2倍とみて、6万円とソロバンを弾く。

店舗面積のことも忘れてはいないのでご心配なく。お店を借りて経営している場合、その家賃の負担は意外と重いもの。神田駅前の一等地なら坪当たり3万円はするだろうから、毎月の家賃は15万円。つまり3日営業すれば、その家賃分を稼げる。週休2日ならば、残りの19日の営業で儲けを出していけばよい。

もちろん、食材の仕入れやパート従業員の人件費も考えなくてはいけない。しかし、10年以上にわたる“勝手診断”の経験則からいうと、坪当たりの月商が10万円以下だと経営はきつく、15万円以上なら余裕のある状態といえる。天玉ソバ屋の月商は132万円だから、坪当たりに直すと何と26万4000円にもなる。「お兄さん、ちょっとつめてくれる」と頼まれると、「そんなに儲けてどうするの」と、ついいいたくもなる。

最後に会計の観点から、この店が儲かっているカラクリを1つだけ紹介したい。それは「回転率」だ。そういうと難しいように聞こえるが、何のことはない。客の在店時間から1時間にどれだけ回るかを計算したものなのだ。この店の場合は10回転。この数が大きくなればなるほど、時間当たりの売り上げが伸び、それだけ効率よく稼げるようになる。

もちろん、この診断方法は、ラーメン屋やレストランなどでも使える。また、繰り返しているうちに会計センスが磨かれること請け合いだ。でも、奥さんや彼女が一緒のときにはやらないように。「どこを見ているの。私の話を聞いていないの」と怒られてしまうからだ。

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