住宅の設計や検査などを手掛けるAさんから、問い合わせが日経ホームビルダーの編集部に入った。
「引き渡し済みのB邸で、第3種換気を運転して給気口に手をかざしてみたが、空気の流れを感じない。法令通りに設備を設置しても換気できていないとしたら、無意味でエネルギーの無駄使いだ。給気しているかどうか測定してほしい」という。
住宅設備のコンサルタントを手掛けるFH-アライアンス(愛知県春日井市)会長の廣石和朗さんと茨城県水戸市内にあるB邸を訪ね、換気設備の風量を測定した。
まずは窓を全部閉じ、1、2階の洗面所とトイレに設置されていた3つの排気ファンから測定を開始した。
強運転での3つを合計すると142m3/時になった。建築基準法が要求するB邸での必要換気量は147.6m3/時なので、若干それを下回った。排気ファンにはほこりがかなり付いていた。
次に、排気ファンのあるトイレと洗面所のドアを全開にして、6カ所に設けられた給気口を測定した。値はすべて0。使った測定機では10m3/時未満を計れないので、測定限界値以下ということだ。
B邸は排気ファンからは空気が出ているが、給気口からはほとんど入っていない状態だ。廣石さんは「排気ファンを運転していれば、換気はしているが、排気ファンのある洗面所まわりだけ空気が動いて、居室の空気はわずかしか動いていない可能性がある」と話す。
給気口からの空気の流入が少なくなる原因の一つは、住宅の気密性能が低いことだ。B邸の床は下地合板、壁は石こうボード、開口部は複層ガラスなどで覆われ、気密シートは張られていなかった。
建築研究所の環境研究グループ長の澤地孝男さんは、「この仕様だと相当すき間面積(C値)は5cm2/m2程度だ。一般的な値だが、これでは建物のすき間から入る量のほうが給気口より圧倒的に多くなる。とはいえ、第3種換気がシックハウス対策として問題だとは考えていない。低気密の住宅でもホルムアルデヒド濃度の規制値をクリアできることを、過去の精密測定で確認している」と話す。
24時間換気が義務付けになった2003年、国土交通省は「建築物のシックハウス対策マニュアル」を作成している。そこには、「C値が2~3cm2/m2より大きいと、居室への外気の導入量が少なくなる」など、第3種換気の注意点が示されている。
澤地さんは「第3種換気に限らず換気方法ごとにメリットとデメリットがある。換気方法に合った設計かどうかをチェックするのは、法律ではなく設計者だ」と訴える。
北欧住宅研究所(札幌市)所長の川本清司さんは換気計画をつくる際、C値と換気設備の仕様、内外温度差、風向、風速などから給排気量を算出し、空気が計画通り流れるかをチェックする。
「きちんと計画すれば、第3種換気は安価で優れた換気設備だ」と川本さんは考えている。川本さんの経験によると、給気口から入る量を必要換気量の60%以上にするには、C値が0.5cm2/m2以下で、静圧9.8パスカル時の風量が26m3/時以上の給気口を使う必要がある。
川本さんには、B邸の給気口と躯体のすき間からの給気量を二つの条件で算出してもらった(下の表)。どちらの条件も、すき間からの給気量が給気口からの給気量の10倍以上になっている。
カタログから、B邸の給気口の風量は、静圧9.8パスカル時に約9.4m3/時であることもわかった。「風量の小さい製品を使ったことも給気量不足の原因」と川本さんは見る。
在来木造で気密性能を上げるのは容易ではない。C値5cm2/m2程度で居室の給気量を増やす方法はないのか。
廣石さんは、第1種換気か、各室に給気口と排気口を設ける第3種換気を提案する。風量が増えると寒く感じる恐れがあるので、熱交換器の併用も勧める。
換気状態をさらに検証するため、廣石さんにはB邸の寝室とリビングの二酸化炭素(CO2)濃度も測定してもらった。
結果は、家族4人が寝ている時間帯の寝室は、測定限界の3000ppmを超えていることが判明した(下のグラフ)。
「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」がビル向けに定めるCO2濃度の基準値は1000ppm以下だ。「ただちに健康への悪影響が出るとは限らないが、何らかの対策をした方がいい。
CO2濃度を1000ppm以下にするには、1人当たり25m3/時の換気が必要だ」と廣石さんは話す。「『広い部屋で寝る』『寝るときはドアを開ける』などを住み手に伝えたい」とAさんは話す。
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