自転車事故の損害賠償 / プレジデント

暴走自転車の事故が増えている。警察庁によると、2007年の自転車対歩行者の事故は2856件。1997年は633件なので、この10年間で4倍以上も増えた計算だ。

たかが自転車と侮ってはいけない。昨年9月には群馬県桐生市で、散歩中の主婦が傘を片手に運転していた男子高校生にはねられて死亡。11月には東京・渋谷駅前の横断歩道を渡っていた歩行者が、信号無視をして猛スピードで交差点に突っ込んだ女性会社員にはねられて死亡する事故も起きている。

これら事故の加害者は、いずれも重過失致死罪(刑法211条1項)の容疑で書類送検された。同罪が適用されるのは悪質なケースに限られるが、それでも法定刑は懲役では5年以下。自動車による人身事故の場合には、自動車運転過失致死傷罪(同211条2項)で懲役7年以下、危険運転致死罪(同208条の2)では懲役20年以下が適用されることを考えれば、自転車の場合の処罰は甘い印象だ。交通事故の案件を数多く扱う谷原誠弁護士は、次のように解説する。

「自転車と自動車では運転者に求められる注意義務の程度に差があるため、現状では違う条文で裁かれます。しかし昨年、悪質な自動車事故が多発したことをきっかけに自動車運転過失致死傷罪や危険運転致死傷罪が新設されたように、自転車も悪質かつ重大な事故が相次げば、法改正の動きが出てくるかもしれません」

もっとも、これらは刑事事件としての話。民事事件では、乗り物の種類にかかわらず、同じ被害があれば同じ損害賠償責任が発生する。

損害賠償の基準額は、ライプニッツ係数をもとに算定する。例えば年収600万円の妻子ある45歳ビジネスマンが死亡事故に遭った場合、損害賠償額は、逸失利益7897万8000円、慰謝料2800万円、葬儀関係費150万円を合計した1億847万8000円(谷原弁護士試算)。加害者の不注意による場合、さらに慰謝料が増額されるケースもある。これは自転車も自動車も同じなのだ。

だが自動車とは事情が異なる点も。自転車による重大事故は示談が成立しにくく、裁判までもつれたとしても、判決どおりに賠償金が支払われない傾向がある。

「自動車は自賠責保険の加入が義務付けられたり、任意保険に加入していますが、自転車の運転者の多くは無保険。そのため後遺症が残る事故や死亡事故になると、損害賠償額が加害者の支払い能力を超え、結局、被害者がやられ損になるケースが後を絶たちません。こうした悲劇を生まないために、自転車の運転者には、自転車保険や個人賠償責任保険への加入をお願いしたいです」(谷原弁護士)

ちなみに保険会社以外でも、自転車安全整備士のいる自転車店で「TSマーク付帯保険」に加入することができる。賠償責任補償は最高2000万円で、費用は年間1000円。自転車に乗る人は、選択肢に加えておいて損はないだろう。

もう1つ、自転車の運転者が意識すべきは、道路交通法(以下道交法)の遵守。自転車は免許制ではないため、運転者が道交法を学ぶ機会は少なく、無意識のうちに違反していることも珍しくない。

例えば歩道を走る自転車。自転車は道交法で軽車両と規定されているため、車道の左側を走るのが原則だ。標識等で通行が許された歩道は走行可だが、それ以外の歩道は押して歩く必要がある。

自転車の前後の補助イスに子供を乗せる3人乗りも、道交法違反。現在、育児支援の観点から安定した構造の自転車に限り容認することが検討されているが、現時点では違反行為になる。

「道交法違反は、それ自体で罪に問われますし、悪質な違反は刑事で重過失致死傷罪が適用、民事でも過失相殺の認定において被害者側の過失割合が低くなり、賠償額の決定に影響します。わが身を守るためにも安全運転が必要です」(同)

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