覚めない夢では困るモデルハウス / 日経BP

先日、住宅展示場のモデルハウスの内観ばかりを撮った写真展を都内で見る機会があった。モデルハウスの写真といっても広告写真や建築写真ではない。モデルハウスを題材にした美術作品としての写真を、現代美術を扱う画廊で鑑賞した。展覧会名は「白いユートピア」、撮影者は井上麻衣さんという若い写真家だ。

 色鮮やかな家具や寝具、花、食器などで飾られたリビングルーム、寝室、キッチンなどを、ハッセルブラッドのカメラが捉えていた。全体として露出をオーバー気味にしているため、現実の住宅よりは商業施設に近い雰囲気がより濃厚になり、白昼夢のようにも見えた。

 例えばフローリング風のシートが敷かれていると思われる床は、白っぽい光がまぶしいほど反射していた。広告写真ならば、逆にアンダー気味の露出で木材らしさを演出しようとするだろう。また、窓の外に隣の――恐らくは他社の――モデルハウスの外壁が近接して写っている写真もあった。華やかな内観と窓の外の現実を対比させようとする表現に、広告写真にはあり得ない作家性を感じた。

展覧会「白いユートピア」の出品作から(写真:井上麻衣)

 

 画廊で井上さんに、なぜモデルハウスを題材に選んだか聞いてみた。「夢のような、ディズニーランドを思わせる美しさを感じる。虚飾や嘘っぽさもあるが、素直にきれいだとも思う」という答えが返ってきた。撮影地は主に東京都多摩地方の展示場に建つ大手住宅会社のモデルハウスとのことだ。

 住宅雑専門誌の記者として、モデルハウスがどういうものかについての知識は持っているが、それにしてもこんなに浮世離れした雰囲気のハウスがあるのかと、展覧会に並ぶ写真を見ていささか驚いた。家具などの“小道具”には撮影時に持ち込んだものも含まれているのではないかと思ったが、井上さんによると、すべて現地に設置されていたという。

 住宅会社がモデルハウスで高級感を演出しようとするのは、用途が営業である以上、妥当なことだろう。だが高級感が浮世離れしたレベルになってしまうと、来場者が住宅会社の顧客になって建てる現実の住宅が、モデルハウスとはかけ離れたものになる可能性も高まる。

クレームの火種にも

 夢と現実をはっきり区別できないまま契約した顧客は、完成した住宅に不満を抱き、クレームを言い出すこともある。かといって、住宅会社が展示場の掲示板で「モデルハウスは実際に建つ家とは違います」などとあまり正直に告知すれば、営業力はガタ落ちになってしまいかねない。

 いかにして夢から現実へとソフトランディングしてもらうか――。建てれば飛ぶように売れていった好況の時代と比べると、住宅営業は様々な点で難しく、複雑になっているのではないかという気がする。


 井上麻衣さんの個展「白いユートピア」は、サナギファインアーツ(東京都中央区)で2011年2月11日から3月12日まで開催している。

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