足腰の強い建設産業構築 / 建設通信新聞

 国土交通省の建設産業戦略会議(座長・大森文彦弁護士・東洋大教授)がまとめた『建設業の再生と発展のための方策2012』に対する声が各所から聞こえ始めた。個別の方策を評価する一方で、切り込み不足の感は否めず、企業自らが自立して建設業の抱える課題を解決する時期にあるという業界からの厳しい指摘もある。ことし2月に会議を再開し、計8回の会合の中で交わされた議論はどのようなものだったのか。方策2012を読み解いていく。
                 
 大森座長は、『建設産業政策2007』『建設業の再生と発展のための方策2011』と今回の「同2012」の3つが連動していることを強調し、特に方策2012は東日本大震災によって激変した環境や顕在化した問題点を踏まえて方策2011に一部新たな方向性を加えたと話す。海外展開やCM(コンストラクション・マネジメント)方式の活用、下請企業評価制度の構築など、建設業が目指すべき姿を実現するために示された複数のキーワードについて、「一つひとつの対策については、もっともなことを言っていると思う」(業界関係者)と評価する声もある。
                  
 政策2007では大転換期の構造改革と題して、大きな方向性を打ち出した。これを受ける形の方策2011では、地域や人材に目を向けながら、社会保険未加入対策に代表されるとおり、「社会的規制の強化により建設業の再生を図る」(国交省幹部)ことを打ち出した点で大きなインパクトを与えた。
                  
■過剰構造 切込み不足
                  
 方策2012は、社会保険未加入対策をさらに徹底しながら、「人に入ってきてもらって産業として発展していく」(同)との思いを込め、“足腰の強い建設産業の構築”“多様なニーズ・役割への対応”という目指すべき姿を前面に出し、特に人材、下請企業、地域社会に目を向ける姿勢をいままで以上に鮮明に打ち出した。
                      
 ただ、政策2007の方向性を、その後の方策に落とし込んでいく中で、「(供給過剰構造という根本問題への)切り込み不足は否めない」「官側の政策に期待する時代ではないのかも知れない」といった業界関係者からの厳しい声も各所から上がり始めている。方策2012で示された方向性は抽象的で、全体像を把握しにくいのも否めない。
                      
 人口減少や建設投資が縮小傾向にある中で、「建設業の構造そのものに切り込む議論が、いま必要ではないか」(業界関係者)との意見も根強い。
                          
 方策2012では人材確保が最重要テーマになるが、それには企業が社員に対して適正な報酬を支払うことが前提となる。
                   
■低価格入札と低賃金
                       
国交省の分析によると、技能労働者の賃金水準は、1997年の年収が437万8000円だったのに対して、2010年には364万5000円にまで低下している。背景には建設投資の大幅な減少に伴う受注競争の激化があり、都道府県を例に低価格入札案件の発生率を見ると、05年が4.7%だったのに対して、10年には29%にまで上昇するなど、低価格入札と低賃金の関連性は無視できない。言い換えれば価格偏重の修正なしには、人材確保の問題を解決することは難しい。
                     
 今回の方策2012に対して、「騒ぎ立てられたくない」という声が国交省の一部で漏れ聞こえてくる。明確に示すことで、かえって方策の実行を抑止する力が働きかねないことへの懸念と言える。ある業界団体の幹部は「来年7月の参議院選挙では、建設業界を代表して地方の声を吸い上げてくれる人に対して統一見解を出し、支援する」と明言しており、方策実行の難しさを物語っている。
                             
 ただ、方策2012を読み解いていくと、その中には供給過剰構造の是正、価格競争の方向修正も念頭に入れた委員や国交省の考えが表れている内容もある。

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