住宅用太陽光発電の急速な普及で、発電パネル設置工事の施工品質のばらつきという問題が表面化してきた。ずさんな工事で屋根材が傷付き、雨漏りなどを引き起こすトラブルが増え始めている。
●太陽光発電パネルの設置で生じる雨漏りのイメージ
上に掲載したのは、太陽光発電パネルの設置に伴う雨漏りの典型例を国土交通省がイラスト化したものだ。
「パネルを載せた架台は、垂木か、垂木に取り付けた補強板などに固定すべきだ。しかし、このイラストのように架台を留めるビスが垂木などから外れて野地板を貫通している場合がある。ビスが不安定な状態にあるとシーリングを施しても切れやすく、雨漏りを招く」。同省住宅生産課課長補佐の豊嶋太朗さんは、こう説明する。
今後、このような雨漏りは増える恐れがあると国交省は危機感を抱く。その根拠の一つが、財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターのデータだ。
急増する消費者相談
同センターの住宅相談窓口が2009年4月1日から10月末までに受けた太陽光発電関連の相談の件数は、全相談件数の0.7%だった。この割合が、09年11月~2010年5月14日では1.2%に上昇。発電パネルの施工が原因と思われる不具合の相談も寄せられている。
・太陽光発電パネル設置の施工をめぐるトラブル相談の事例
(住宅リフォーム・紛争処理支援センターの資料から抜粋したうえで要約)
設置工事中の瓦の補修が不適切
(住宅リフォーム・紛争処理支援センターの資料から抜粋したうえで要約)
メーカーは施工ミスに責任を負わない
(住宅リフォーム・紛争処理支援センターの資料から抜粋したうえで要約)
例えば、築20年で太陽光発電パネル付きの木造住宅を2007年に購入した消費者は、前ページのイラストのように野地板を貫通したビスが原因の雨漏りに見舞われた。このようなビスの留め方ではパネルの設置状態も心もとない。この消費者は「台風、地震の際に落下してきても困る」と、住宅相談窓口に不安を訴えた。
かねてから、太陽光発電パネルのずさんな設置による雨漏りの問題化を指摘してきた工務店経営者もいる。大和工務店(東京都江戸川区)会長の後関和之さんだ。後関さんの指摘は次のような経験に基づいている。
かつて引き渡し後、住まい手が同社に相談せずにテレビのアンテナ設置を手配した住宅があった。後で屋根材に、アンテナ工事の作業員が踏んだためと思われる亀裂が見付かったという。「アンテナ工事の作業員には屋根の素人がいると実感した。太陽光発電パネルの設置でも同じことが起こるのではないか」(後関さん)。
需要が急拡大している太陽光発電パネルの設置工事には、様々な業界からの参入者がある。いずれもパネルメーカーが実施する登録施工店向けの研修(ID研修)を受ける。この研修について、工事関係者などからは、「座学中心で実務的でない」「設置される建物側への配慮が不足している」と懸念する声も上がっている。
このように、パネルの設置工事について消費者や住宅業界などから不安の声が上がっているのを受けて、国交省が動いた。
国交省が設置基準作成
国交省は屋根材を傷めるような太陽光発電パネルの設置工事をなくすことを狙って、既存住宅向けの設置工事の施工・検査基準をつくり、2010年5月17日に発表した。
パネルを設置する施工者が、各住宅瑕疵担保責任保険法人の運営するリフォーム瑕疵保険に加入する場合に守るべき基準という位置付けだ。法規ではないが、「保険に加入しない施工者にも参考にしてもらいたい」と同省の豊嶋さんは話す。基準作成には学識経験者のほか、大和工務店の後関さんなど住宅業界の関係者も参加した。
●リフォーム瑕疵保険の太陽光発電パネル設置工事基準(要旨)
内容の一部の要旨を上の囲みにまとめた。「当たり前の内容だと思う人もいるかもしれないが、当たり前のことができていない人がいるのも現実。今後、これがたたき台になって、より良い基準ができればよい」。豊嶋さんはこのように話している。
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