友人がデジタルカメラを買い替えたという。購入したのは中堅家電量販店N。少し足をのばせば安さがウリの大手Y電機があるが、最近はもっぱらNを利用しているという。なぜなのか。
彼がNを支持しているのは、「商品説明が丁寧で、気持ちよく買い物ができるから」。デジタル家電に限らず、電器製品は機能が複雑化し、よりよいものをと考えれば、メーカーごと、機種ごとの比較検討も必要。よほどの電器好きでなければ、面倒になってしまうことさえある。なるほど、プロである店員がニーズを汲み取り、適した製品を勧めてくれれば、安心して購入できる。オタクといっては語弊がありそうだが、電器製品が心底好きな店員が対応してくれれば、商品知識も増え、いい買い物をした気がするものだ。
一方のY電機では、広いフロアにまばらなスタッフがいるだけで、相談しようにも遠くまで呼びに行き、接客中なら所在なく待っていなければならない。これはお金を出す側にとって、決して気持ちのいいものではない。やっと店員をつかまえても、聞かれたことに答える程度で、客を喜ばせるようなプレゼンテーションもない。買うという目的は果たせても、気分の高揚は望めない。人件費を下げれば経営が効率化するという、財務分析の落とし穴にはまっているケースだろう。
友人がデジカメを購入した際には、製品の特徴やスペックはもちろんのこと、各メーカーの開発姿勢の違い、ユーザーの反応など、広告では知りえない情報、加えて広告の読みこなし方といったノウハウも提供されたという。そんな店員なら、多少の価格差はサービス料として受け入れられる。次に買い物が必要になったとき、カタログを見比べて頭が混乱すれば、思い浮かぶのは安さのY電機ではなく、親切な店員がいるNだろう。店側からいえば、リピーターの獲得だ。
そうなると興味が湧くのが、両店の売り上げに占める販売関連費用の割合だ。
さまざまな業界に共通していわれることに、「1対5の法則」がある。既存顧客に再来店させるコストが2万円と仮定すると、新規顧客を1人獲得するための広告コストは10万円。つまりこの法則は、新規顧客を獲得するより、リピート率を増やすほうが低コストで売り上げをあげることができるということを表す。会計の視点で見れば、リピーターが多いほど、売り上げに占める販売関連費用の割合が低くなり、結果、営業利益率が高くなる。中間決算発表が相次ぐ今、販売関連費や売上高営業利益率から、そんな推測をしてみるのもよさそうだ。
量販店Nの店員の商品説明が丁寧で信頼できる理由は、商品に愛情を持っているからだろう。その愛情は、商品を供給するメーカーと店員とのコミュニケーションから生まれる。
友人が選んだデジカメは、ユーザーの意見を積極的に開発に生かしているという某メーカーの製品である。店員によれば、メーカーの営業マンが商品に誇りを持ち、熱のこもったプレゼンテーションを行うそうで、それは店員を通じてユーザーに伝播する。必要な家電は揃い、気に入った製品があれば買うというのが今の消費者であり、選択肢には限りがない。買うか買わないかという二者択一の旧態依然とした売り方では消費者の心を動かすことはできず、商品に対する愛情、物語があってこそ、消費者の気持ちをつかむ売り方ができるのだ。
商品開発も同様で、消費者との接点である販売の現場を大事にしてこそ、現場から消費者のニーズがフィードバックされ、市場に合った開発が可能となる。価格や経営の効率性だけでなく、エンドユーザーを見ることが、売上高営業利益率向上の鍵だ。
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