省エネ住宅Q&A(2) / 日経BP

 住宅の省エネルギー対策では、断熱がとても重要だと聞きました。何となく分かるような気はしますが、断熱することで具体的に、どのようなメリットが考えられるのでしょう? また、どのような考え方で、どのようなことを目指して断熱したらよいのでしょうか?

我慢を前提とした住宅で起きる3つの不健康

 住宅断熱の目的には、「省エネ」「快適」「健康」の3つがあります。

 現状の日本の家は、ほとんどの場合、暖かい部屋と寒い部屋が混在しています。冬の暖房時には、この状態が顕著になりますが、それは「個別暖房」が主流なためです。

 個別暖房はエネルギー使用量が少ないので、日本人は省エネの優等生といえます。でも、家の中が寒かったり、大きな温度差があったりするので、不快なだけでなく、不健康を招きます。我慢の省エネによって、健康を損なってしまっては美徳とはいえません。まずは健康を確保して、その上で、さらに快適を追求していくというのが本来の順序でしょう。

 快適を追求するからには、環境に負担をかけないための省エネの努力が必要です。快適を求めたから人類は環境を破壊したといわれます。その一方で「エコロジーとは快適を追求しながらも省エネに努力すること」といわれます。省エネ、快適、健康はバラバラではなく、関連して成立する要素なのです。

 寒冷な欧州や北海道では全室暖房が当たり前です。これにより、健康で快適な生活を実現しています。ただし、エネルギー使用量は莫大(ばくだい)です。そこで断熱性能を高めることによってエネルギー使用量を削減することが必要になります(図1)。

 一方、日本の本州以西では個別暖房が当たり前です。これは、我慢の生活といえます。そのおかげで、エネルギー使用量は小さくて済んでいます。つまり、我慢からの脱出を図ることが断熱の目的となり、全室暖房の導入で起こるエネルギー使用量の増加を抑えるために省エネに努力する、という順序になります(図2)。

図1 欧州や北海道の場合
図1 欧州や北海道の場合
図2 本州以西の場合
図2 本州以西の場合

 

 現状の我慢を前提とした住宅は、どんな不健康を招いているのでしょうか。それは、「アレルギー」「脳卒中」「室内空気汚染」の3つです(図3)。

図3 我慢を前提とした住宅が招く不健康とその原因
図3 我慢を前提とした住宅が招く不健康とその原因

 

断熱・気密・換気で全室暖房を効率よく実現

  アレルギーは、カビ・ダニの繁殖に起因する場合があります。このカビ・ダニの繁殖を誘発しているのが湿気で、多くは結露が原因となります。 

 結露は、空気中の水蒸気が冷やされて水滴になる現象で、家の中に暖かい所と冷たい所が混在すると起こりやすくなります(図4)。冬の朝、ガラス窓に付いた水滴が代表的です。 

図4 個別暖房住宅で発生する結露のしくみ
図4 個別暖房住宅で発生する結露のしくみ

 

 脳卒中は、急激な温度差に人体が反応するヒートショックによって起こります。人体は血流で栄養や酸素、そして熱を体の隅々にまで循環させ、体温を一定に保っています。このため、体が冷やされる環境に置かれると、放熱面積を小さくしようとするメカニズムが働きます。生きていくのに大切な頭から内臓の範囲の血流を維持しながら、腕の付け根や足の付け根では血管を収縮して血流を小さくするのです。 その結果、今まで体全体に流れていた血流が頭から胴体だけに絞られることから血圧が急上昇し、脳卒中発作の引き金になるのです。明け方、暖かい布団から出て、冷たい廊下を歩いてトイレに行くことを想像してください。ヒートショックを誘発するこの時間は「魔の30分」と呼ばれています。

 不健康の3つめである「室内空気汚染」は、建材、家具、衣料品に含まれる化学物質が室内に放散され、換気不足で濃度が高くなることによって起こります。2003年に建築基準法が改定され、いわゆる「シックハウス法」が制定されて、ホルムアルデヒドを放散する建材の規制と機械換気の設置が義務付けられました。その結果、財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センターによると、ホルムアルデヒド濃度が基準値を超えている住宅の割合は2000年に28.7%だったものが05年には1.5%にまで減少しました。

 以上のように、個別暖房を前提とした我慢の生活は、結露とヒートショックを招く危険を含んでいることが理解されたと思います。

 そこで本州以西でも全室暖房が求められるようになってきました。ただし、全室暖房の導入に当たっては暖房費の増加が予想されます。そこで、「無理のない燃費で家全体を暖める」ため、断熱性能が要求されることになります。「どれほどの?」と問われれば、「最低限、1999年に施行された次世代省エネルギー基準レベルをクリアすること」が答えとなります。

 断熱性能と合わせて忘れてはいけないのが「気密性」です。どんなに断熱性が高くてもすき間風が往来する状態では断熱効果が得られません。建物のすき間風を減らす、気密化は重要です。断熱と気密は一体のものです。そして、気密が高まれば「機械換気」が必要になります。すき間風による自然の換気が期待できなくなるからです。

図5 「4つのバランスづくり」
無理のない燃費で快適な暮らしを実現するための「4つのバランスづくり」
無理のない燃費で快適な暮らしを実現するための「4つのバランスづくり」

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