いきなりで恐縮だが、少しばかりお考えいただきたい。メーカーの希望小売価格が10万円のプリンターがあるとしよう。あなたの会社はこれを9万5000円で購入した。さて、プリンターはいくらで会計処理すべきか─ ─。
「原価を記せ」というのであれば、問題なく9万5000円という答えが出る。しかし、「時価」という概念を持ち出すと、少々ややこしいことになる。
問題が複雑になってしまうのは、「モノの価値は日々変動する」という事実があるからだ。昨日は9万5000円で売っていたとしても、明日は9万4000円に値下がりするかもしれない。ある時点での価格で会社の資産に計上しても、時間が経てばその信頼性は薄れていく。
もう一つの問題は、「客観性」である。希望小売価格が10万円であっても、その価値は必ずしも10万円とは限らない。ダイヤモンドに関心のない人には、それはただの石ころにすぎないのと一緒だ。では、誰がどう判断するのだろう。
モノの価値を最も客観的に決めているのは証券市場である。市場において形成された取引価格が、客観性のある「有価証券の時価」なのだ。それ以外のものはたいてい個別事情が含まれた「相対価格」であり、「公正」な時価とは言い難い。
現在の日本の会計基準では、有価証券などの金融商品について、原則として時価で評価する「時価会計」を採用している。しかし、いま見たように時価評価には根本的な問題があり、決して万能ではないというのが私の考えだ。
モノの価値を何で評価するのか、会計の世界における歴史的背景を紹介しよう。
1930年代の世界恐慌に陥るきっかけとなったのは、29年10月に起きたニューヨーク証券取引所での株価大暴落である。株価は24年半ばから投機資金の流入により、長期上昇を続けていたという。その当時までは、価値の増減を損益計算書にストレートに反映させる「時価主義」が支持されていた
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