落書きは刑法261条にある器物損壊罪に当たる行為です。器物損壊とは単に物理的に壊すだけでなく、本来の目的を果たせないような状態にしてしまうことも含みます。店の看板やシャッターに落書きして、字が読めないようにしてしまうことや美観を損ねることも器物損壊となります。
立派な器物損壊罪 最高裁・有罪判決もある
器物損壊罪の刑罰は、3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料と定められています。しかし、親告罪なので被害者(器物の持ち主)が告訴しなければ犯罪にはなりません。告訴することで初めて要件が充たされ刑事事件となるわけです。
以上が、刑法における落書きに関する基本知識。そのうえで、損壊の対象が特別に保護されているものの場合、刑は加算されて重くなり、処罰の対象も広がってきます。
特別に保護されているものとは……有形・無形文化財、民俗文化財、特別史跡名勝天然記念物などです。それぞれ何を指すかは文化財保護法で定義されています。たとえば、歴史的な建造物である法隆寺や民俗文化財である阿波人形浄瑠璃にまつわるものに落書きしたり、屋久島のスギ原始林にナイフで字を書きつけたりしたケース。
これらの場合、懲役は基本では3年以下だったのが5年以下にアップします(罰金の金額は同じ)。2008年、イタリア・フィレンツェの大聖堂に日本人が落書きして話題になりましたが、あれがもし日本国内の出来事なら、この文化財保護法適用のケースに該当することになるでしょう。
また、文化財保護法に定められたものを棄損した場合、棄損した犯人がたとえ持ち主自身であっても罪に問われます。それが前述した「処罰の対象も広がる」の意味。国民全体の貴重な財産だから、たとえ自分の所有になっているものでも、傷つければ加害者になるということです。
まとめると、刑法の器物損壊罪は一般的な器物に対する落書きのケース。器物損壊罪における特別法として位置付けられているのが文化財保護法ということになります。
法律上はこのように定められている落書きの罰則ですが、実際に犯人が逮捕されたという話はまず聞きません。
数年前、区立公園内の公衆トイレへの落書きで起訴され、最高裁まで争って有罪(懲役1年2カ月、執行猶予3年)となった例があります(06年1月17日)。トイレの建物外壁全体にラッカースプレーで文字を大書したケース。原状回復に相当の困難を生じさせたということで、損壊に当たると判断されました。
私は、落書きに対しては、近年実施された駐車違反の民間監視員制度や路上喫煙禁止のような形で臨むのが最も有効ではないかと考えています。つまり、民間の人材を活用し、現場で行政罰の一種として反則金を徴収する。徴収したお金は文化財の保護資金に回せば一石二鳥となるでしょう。
刑法があっても実際には告訴して手間をかける人が少なく、逮捕される人もない現状では、落書き防止に役立たないどころか遵法精神を低下させるという意味でも悪影響のほうが大きいと考えるべきです。
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