高断熱・高気密住宅の普及を進めている新木造住宅技術研究協議会の常務理事の会沢健二さんは、快適な家づくりについて「断熱・気密・換気・冷暖房のバランスが重要だ」と指摘する。一つでもバランスが崩れると、結露や腐朽といったリスクが高くなる。怖いのは、これらをやったつもりで施工してしまうこと。善かれと思ってやったことでも、バランスを崩してしまえば、問題を抱える“ダメ家”になりかねない。
だが、ここには誰もがはまりやすい落とし穴がある。住宅の熱環境トラブルに詳しい住環境アルテ(岩手県滝沢村)の昆寛さんは、これまでの調査経験から「4つのバランスの理解が曖昧な住宅会社は多い」と分析する。住宅会社に悪気はないものの、気付かないうちに“ダメ家”をつくってしまっているケースが少なからずあるようだ。「問題ないはず」「大丈夫だろう」といった“やったつもり施工”がバランスを崩しているという。
バランスが崩れると、上の図に示したように様々な悪影響が現れる。例えば、断熱や気密をきちんと施工したつもりでも欠損があると、そこが弱点となり湿気や熱が漏れて結露や腐朽の原因となる。
また、石油ストーブといった開放型の暖房器具を使用したり、住まい手が室内で洗濯物を干したりすることで、高湿になって結露を誘発。そこに換気不足が重なれば、居室内に湿気が滞留してカビが生じる恐れもある。
2020年までに国は省エネ基準の義務化を検討している。今後、高性能な省エネ住宅が当たり前になる可能性は高い。そうなったとき、断熱だけに目を奪われて気密・換気・冷暖房とのバランスの悪いダメ家をつくらないよう、押さえるべきポイントを見ていこう。
ここでは、全4回に別けてポイントの一部を紹介する。今回のテーマは「気流止め」だ。
気流止めで湿気を防ぎ断熱性能を確保
「高断熱・高気密住宅は、気流止めを施工するのが大前提」(新木造住宅技術研究協議会の会沢さん)──。高断熱・高気密住宅の建築や設計に携わる識者もみな、口をそろえてこう強調する。
だが、気流止めの重要性は現場にあまり伝わっていない現実がある。上の写真のように、気流止めが施工されていない状態の住宅は少なくない。
小屋裏の結露などのトラブル調査で多くの現場を経験している、屋根システム総合研究所専務理事の江原正也さんは、「小屋裏に上がると、気流止めが施工されていない状況をよく目にする」と指摘する。気流止めがないことが、結露や腐朽といったトラブル要因の一つになっているケースは後を絶たないという。
上下に施工すれば万全
気流止めの目的は、「防湿効果と断熱性能の確保」と東京大学工学系研究科特任研究員の齋藤宏昭さんは説明する。 壁の上端部と下端部に気流止めがないと、上の図のように壁内を空気が流れる。この気流が床下や居室内の湿気を小屋裏に運ぶ。小屋裏に滞留した湿気は、結露や腐朽のリスクを高める。また、気流は壁を冷やす。
気流止めの施工は、乾燥木材や気流止め専用の断熱材製品を使うのが一般的だ。施工手順は、硝子繊維協会などが発行する施工マニュアルが参考になる。
軸組工法の壁勝ちの場合は、外張り断熱、充填断熱にかかわらず壁内に空気が通る空間ができやすいので気流止めの施工を心掛けたい。床勝ちの場合でも、小屋裏側(壁の上部)に気流止めを施工していないと居室内の湿気などが小屋裏に侵入する可能性があるので、上部の気流止めは必要だ。
現場発泡の断熱材を吹き付けて施工する際でも、壁内に空気が流れる空間が生じることを想定して気流止めを施工しておくと良い。
地域の気温や、暖房を使う頻度といった住まい方などの条件でも異なるが、トラブルを避けるためには、「外壁は通気層を設けたうえで、外壁と間仕切り壁の上下ともに、気流止めを施工するのが理想的だ」と齊藤さんは言う。
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