建物緑化 / 日経BP

屋上緑化や壁面緑化など建物まわりの緑化は珍しくなくなりました。ただ、こうした緑化の普及に、ブレーキがかかりつつあるというデータが示されました。

 2010年8月に国土交通省が発表した屋上緑化や壁面緑化の施工実績の調査結果です。09年の屋上緑化・壁面緑化の施工面積は、それぞれ前年よりも約25%減少していました。

●屋上緑化の施工面積の推移

国土交通省が2010年8月31日に公表したデータに基づき、日経アーキテクチュアが作成。全国の造園建設会社やゼネコンなど430社にアンケート調査した結果。回答数は219社
国土交通省が2010年8月31日に公表したデータに基づき、日経アーキテクチュアが作成。全国の造園建設会社やゼネコンなど430社にアンケート調査した結果。回答数は219社

 

●壁面緑化の施工面積の推移
屋上緑化の調査と同じ方法で国土交通省が調べた結果。2008年までは順調に伸びていたものの、09年に急ブレーキがかかっています
屋上緑化の調査と同じ方法で国土交通省が調べた結果。2008年までは順調に伸びていたものの、09年に急ブレーキがかかっています

 

 屋上緑化では07年まで、壁面緑化では08年まで、それぞれ施工面積が増加傾向にありました。国交省は、着工床面積の減少割合と緑化の施工面積の減少割合が同程度であるため、建設市場の冷え込みと関連付けて分析しています。

 しかし、今後は新たな市場の伸びを期待できるかもしれません。要因は2つあります。東日本大震災による東日本での節電ニーズと緑化による経済効果への期待が、それぞれ高まっているからです。

ツル性植物で電力量を2割減

 建築研究所は浜松市と共同で、ツル性の植物を住宅の開口部周辺に植えた際の節電効果をアンケートで調査しました。主にリビングの開口部周辺にニガウリ(ゴーヤ)を植えてもらい、電力使用量を答えてもらいました。

 調査に協力した人のうち、ニガウリをうまく育てられなかった人と育てられた人の2010年8月の電力使用量を比較したところ、育てられなかった人は2割ほど電力使用量が多くなっていました。

●緑化の有無による電力使用量の差
ニガウリの生育に成功した事例と失敗した事例における2009年と10年の電力使用量の差
ニガウリの生育に成功した事例と失敗した事例における2009年と10年の電力使用量の差

 

 また、ニガウリを育てていなかった09年と育てた10年とを比べたところ、例えば、10年8月は記録的猛暑で日平均気温が前年同月に比べて1.6度高かったにもかかわらず、電力使用量は前年とほとんど変わりませんでした。 室内の温熱環境についての実測調査は実施していません。実際には居住者の省エネ意識の向上といった効用なども作用している可能性はあります。それでも、調査結果に基づけば、「緑のカーテン」に一定の節電効果は期待できそうです。

緑化で年間92億円を稼ぐ

 一方、緑化による省エネ効果はどんな場合でも期待できるとは限りません。例えば、屋上緑化で断熱効果を得やすいのは主に最上階です。温熱面での効果であれば、遮熱塗料を用いる方が、コスト面では有利になるケースも多いはずです。

 ただ、発注者の緑化に対する期待は、省エネだけではありません。集客や宣伝といった効果も、緑化を採用する大きな動機になります。

 集客効果の面では、屋上緑化が大きな経済効果を生んだという研究成果を、建築研究所が10年10月に発表しています。大阪市内に建つ「なんばパークス」で実施した調査に基づくものです。

大規模な屋上緑化を採用したなんばパークス。2010年に撮影(写真:日経アーキテクチュア)
大規模な屋上緑化を採用したなんばパークス。2010年に撮影(写真:日経アーキテクチュア)
           

 建築研究所は、なんばパークスの大規模な屋上緑化が年間で約92億円の売上高に寄与し、約2億円の営業利益をもたらしたと試算しています。施設利用者の消費金額、消費者が感じる緑化の寄与度などをアンケートで調べた結果に基づいて計算しました。

●緑化が1人1000円強の出費を促す
建築研究所の資料に基づいて、日経アーキテクチュアが作成
建築研究所の資料に基づいて、日経アーキテクチュアが作成

敷地の緑化で地価向上

  屋上・壁面緑化に限らず、敷地周辺を緑化する取り組みが不動産価値を向上させているということを示すデータも出てきました。

  例えば、鹿島は東京23区内の緑地被度と賃料の関係を調査しました。間取りや駅までの距離、築年数といった要因を排して評価したところ、緑地が賃料を押し上げていることを確認しています。

●緑と比例する賃料
東京23区内の緑地被度と賃料の関係。鹿島の資料に基づき、日経アーキテクチュアが作成
東京23区内の緑地被度と賃料の関係。鹿島の資料に基づき、日経アーキテクチュアが作成
                            

  積水ハウスは、福岡市内で生物環境などに配慮した緑化を積極的に取り入れた分譲地と、近隣のほかの住宅地との地価推移を比べました。すると、緑化を積極的に取り入れた分譲地の方が、バブル経済の崩壊後も土地の価値が下落しにくかったことが判明しました。

  緑化の採用は省エネや集客効果、不動産価値向上といったプラス面だけでなく、初期投資や維持管理費をはじめとするコスト増の要因にもなります。緑化の普及を図るうえでは、こうした要素を総合的に検討して、より正確な経済効果を示していくことが重要になっていくでしょう。

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