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「お手柄! 窃盗犯を取り押さえた高校生に感謝状」というニュースを耳にすることがある。警察官でない一般の人間が犯人を捕まえられることは、法律で明文化されている。

「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる」(刑事訴訟法第213条)。

「何人でも」とは、老若男女、国籍、前科の有無なども問わず誰でも、ということ。お手柄高校生に「逮捕する」という感覚はなかっただろうが、法律上は警察官が行う逮捕と同じだ。

ただし、「現行犯人」に限られていることに注意。逮捕には3つの種類がある。裁判官が事前に発する逮捕状に基づく「通常逮捕」、緊急を要するため、逮捕後に逮捕状を請求する「緊急逮捕」、そして逮捕状を必要としない「現行犯逮捕」。このうち、一般人も行うことが認められているのは現行犯逮捕だけ。一般人が逮捕した場合、速やかに警察官などに引き渡す必要があり(同法第214条)、引き渡しを受けた警察官は、逮捕した者の氏名や住所を聞かなければならない(同法第215条2項)。

では、どのような状態なら「現行犯人」といえるのか。現行犯人とは「現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者」(同法第212条1項)を指すが、犯行後間もないと明らかにわかる者も準現行犯(同条2項)として逮捕ができる。例えば被害者から「あいつが犯人だ」と追いかけられていたり、犯行に使ったと思われるナイフを持っていたり、返り血と思われる大量の血の跡が衣服についているようなケースが準現行犯にあたる。長谷川裕雅弁護士は次のように解説する。

「現行犯人かどうかは、逮捕が犯行と時間的、場所的に密接しているかどうかで判断される。犯行後30.40分が経ち、犯行現場から約20メートル離れた場所で発見された犯人を、判例では現行犯人としている。もっとも現行犯人と認められる時間的、場所的密接性の限界値は、状況によって流動的。密漁船を約30分追跡した者の依頼でその後、約3時間追跡し現行犯逮捕し、現行犯人と認められた例がある。視界に障害物がない海での追跡という特殊事情が影響している。犯行後、かなり時間が経ち、現場からも離れている現行犯逮捕は、一般的に難しい」

逮捕というのは他人の身体を拘束するという、人権を制約する行為だから、一般人が他人を逮捕できるのは、犯人を取り違える可能性が低い現行犯に限られるというのは自然なことだ。しかし逆に、現行犯なら、逮捕権という重大な権限を一般人でも行使できることになる。

では、現行犯なら、どんな犯人でも一般人が逮捕することはできるのだろうか。例えば、赤信号を渡る歩行者など、軽微な罪を犯した人を一般人が逮捕することはできるのだろうか。

結論からいえば、法律上は「犯人が逃げようとした場合は可能」である。軽微な罪については、犯人の住居や氏名が明らかでない場合か、逃亡するおそれがある場合に限って現行犯逮捕が認められている(同法第217条)。つまり歩行者の信号無視(2万円以下の罰金又は科料)の場合、免許証などで身分を明らかにして大人しくしていれば逮捕できないが、逃げようとした場合には、逮捕できるということになる。しかし、現実の運用はどうかというと、

「おそらく赤信号無視程度では警察に受けつけてもらえない。そもそも、年齢・境遇・犯罪の重さ・態様等を考慮して、逮捕の必要性(同法199条2項但書)がない場合は、逮捕は認められない。一般人による現行犯逮捕はなかったことにして、せいぜい口頭の注意で終わる可能性が高い」(長谷川弁護士)

忙しい警察官は軽い犯罪に手が回らない。一般人による現行犯逮捕が法律上可能でも、軽微な犯罪については形骸化しているといっていいだろう。

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「壁紙を全面的に張り替えるので、敷金の戻しはありません」と賃貸人(大家)にいわれ、それを鵜呑みにしてしまうケースが後を絶たない。

敷金は賃貸借契約を結んで入居する際に払い、契約を解除して退居するときに必要な補修費用などが差し引かれて返却されるお金のこと。確かに民法597条(使用物の返還の時期)、598条(借主による収去)、616条(貸借の規定の準用)を根拠として、賃借人には原状回復義務があると解釈されている。

しかし、借りた当時の状態にそっくりそのまま戻す必要はない。国土交通省のガイドラインが示しているように、「賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」が原状回復義務の対象範囲なのだ。

たとえば、火のついた煙草を落として畳を焦がした、絵画を飾るため壁に深いネジ穴を開けたなどの故意や不注意でないかぎり、賃借人は原状回復の費用を負担しなくてよい。ごく普通に使っているうちに生じた日焼けや摩耗などは「通常損耗」とみなされ、賃貸人が負担すべきものになる。

それゆえ、通常損耗の分まで敷金から引かれていることがわかったら、その大半を取り戻すことができる。「敷金を返せ」というのはクレーマーではなく、正当な権利を主張しているのだということをまず覚えておいてほしい。

とはいうものの、過当競争で賃貸料の下落に頭を抱える賃貸人は、「何とか敷金を返さずに済む方法はないか」と絶えず知恵を絞っている。そこで新たな問題として浮上してきたものが、賃貸借契約に「クリーニング費用等の原状回復費用は賃借人が負担すべきものとする」といった特約条項を盛り込んでおき、通常損耗の分も含めて敷金から差し引いてしまうケースだ。

こうした場合の判断基準になるものが2005年12月の最高裁判所の判例である。賃借人に通常損耗の分まで負担させるためには、(1)賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が、契約書に具体的に明記されているか、(2)明記されていない場合には、賃貸人が口頭で説明し、賃借人が明確に認識して合意したと認められることが必要とされた。つまり、抽象的な特約条項にとどまり、口頭での説明も十分でなかった場合には、通常損耗の分は負担しなくて済むわけだ。

ただし、賃貸人は「クリーニング費用一式」のような形で差し引いてくることがよくある。その場合は、費用の具体的な明細を求めて、通常損耗の分が含まれていないか確認することが重要だ。もし、この段階で賃貸人が実際のクリーニング費用より過大に請求していたとわかれば、詐欺(刑法246条)にあたる可能性が高い。

※すべて雑誌掲載当時

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厳しい経済状況を反映して、下請けいじめが増えている。2008年度、下請代金支払遅延等防止法(以下、下請法)に基づいて公正取引委員会が勧告を出した件数は15件。04年の改正下請法施行以降、過去最高になった。

下請法では、支払いの遅延や代金の減額など、優越的な立場にいる親事業者が下請事業者の利益を不当に損なう行為を禁じている。しかし、適用範囲は意外に狭い。対象になるのは、製造、修理、情報成果物作成、役務提供の4つの委託取引。建設業は建設業法に類似の規定があるため、下請法の対象とはならない。また、運送やホームページ作成など、実際に下請けいじめが横行しがちな取引は対象外だ。

資本金による区分にも注意したい。製造委託の場合、下請法が適用されるのは「親事業者が資本金3億円超で、下請事業者が3億円以下」、あるいは「親事業者が資本金1000万円超3億円以下で、下請事業者が1000万円以下」の組み合わせのみ。例えば資本金100億円の大手メーカーが、資本金5億円の部品メーカーに減額を強要したとしても、資本金区分で適用外となる。このようなケースからも、下請法は必ずしも実態に即しておらず、形式的に適用されていることがわかる。

形式的という点では、双方の合意があっても下請法が適用されることに留意したい。下請事業者が次の受注を期待して減額を了承するケースは少なくないが、仮に合意書があっても、親事業者が発注時の代金を減額すれば直ちに下請法違反となる。違反があれば、公取委から改善措置を取るよう勧告や警告などの行政指導を受ける。しかも勧告の場合には、社名や違反事実の概要が公表される。親事業者となるような大企業にとって、企業イメージの低下につながる違反事実の公表は、避けたいところだろう。

対象取引や資本金区分で下請法適用外でも安心はできない。下請法は、独占禁止法で禁じる「優越的地位の濫用」(公取委告示で定める「一般指定14項」)の規制を補完的に類型化したもの。下請法で違反にならなくても、優越的地位の濫用に該当するとして独禁法違反になる恐れがある。

独禁法は2009年6月に改正され、優越的地位の濫用については「売上額の1%」が課徴金として賦課されることになった。独禁法の規制が強化されたので、その補完法的性質を持つ下請法も、いずれ強化への動きが出てくるだろう。

規制強化の動きは、下請けいじめに遭っている企業には朗報である。現状では公取委に被害を申告しても動きが鈍いのが実態だが、企業イメージの低下を恐れる親事業者に向けては、公取委に申告するというだけで大きなプレッシャーになる。下請法・独禁法という伝家の宝刀をチラつかせながら、賢く交渉したい。

※すべて雑誌掲載当時

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