飯泉 梓(日経ビジネス記者)、中島 募(日経ビジネス記者)、細田 孝宏(日経ビジネス記者)
消費者の購入意欲を増大させた家電エコポイントとエコカー補助金。2010年は住宅版が新設され、さらなる景気の浮揚効果を狙う。だが各業界からは“消費カンフル剤”の限界を指摘する声も高まっている。
2009年に景気浮揚を狙って始まった省エネ家電の「エコポイント制度」と環境車を対象にした「エコカー補助金」。消費不振に悩む家電、自動車の需要の火付け役となり、特にポイント還元率が高い薄型テレビは、2009年の出荷台数が前年比29.3%増の1271万台(1~9月の実績値と10~12月推計値の合計)と大きな効果を発揮した。
国内自動車販売も、昨年9月からは前年同月比でプラスに転じるなど底上げ効果を演出した。
エコポイント旋風を広げようと、今年は住宅版が始まった。2009年度第2次補正予算案に盛り込まれ、住宅とマンションの新築やリフォームが対象となる。断熱効果の高い窓や屋根、バリアフリー工事などにポイントがつく。
2009年の新設住宅着工件数は、42年ぶりに100万戸を切る見込みになるなど、住宅業界は落ち込みが厳しい。政府の支援策はのどから手が出るほど欲しいところ。だが業界からは「空振りか」との声が上がっている。「住宅版エコポイントだけで、需要を喚起するのは正直、難しいね」。こう大手ハウスメーカーの関係者は打ち明ける。
住宅の還元率はわずか1%
期待どころか失望が漏れるのはなぜか。それは住宅という高額な商品を対象にする割には、還元率がかなり低いことに起因する。家電のポイント還元率は5~10%に達する。住宅を新築すれば1000万円単位の費用がかかるが、得られるポイントは30万ポイント、すなわち30万円分。約3000万円なら還元率は1%に達するかどうかだ。
リフォームも最大30万ポイントを得られるものの、申請には少々手間がかかる。例えば断熱のリフォームでは、壁に断熱材を入れる工事の様子を写真に撮り、“証拠”として提出する必要がある。どれだけの家主がわざわざこうした作業をするか、分からない。
またマンションなどの共同住宅の場合、リフォームは限定的になるという見方もある。天井や風呂場などのリフォームは見込めるものの、大型案件はむしろ屋根や外壁といった共用部分に関わる。だが共用部分は住人の合意が要るため、どれだけ需要を喚起するかは見えにくい。「リフォームに関しては、(権利関係が異なる)マンションと戸建ては別々の制度を設けるべきなのでは」とデベロッパー関係者は言う。
共同住宅は、新築の場合でもエコポイントのハードルは高い。大型マンションであればあるほど、企画から着工するまでに時間がかかる。だがエコポイントの対象は、「2010年末までに着工したもの」と定められている。どれだけの数のマンションが今後、対象になるかは読みきれない。
薄型テレビの50%が対象外に
では、昨年、特需に沸いた家電や自動車への効果は続くのだろうか。政府は2009年度第2次補正予算の追加経済対策で家電エコポイントを12月末まで、エコカー補助金を同年9月末まで延長することを盛り込んでいる。
薄型テレビの場合、世帯普及率は既に5割を超え、市場の成長は鈍化しつつある。それだけに「エコポイントの継続は心強い」(パナソニックの大坪文雄社長)と歓迎ムード。
しかし、昨年に比べると効果が薄れるとの懸念もある。制度の延長に伴い、対象製品が一時的に減少するからだ。
エコポイントの対象を決める省エネ基準は、省エネ性能の目標達成度を5つの星で表している。エコポイントの対象は4つ星以上。現行基準では店頭で販売されている製品の90%以上がエコポイントの対象となっている。
経済産業省はメーカー各社にさらなる省エネ性能向上を促すべく、薄型テレビの年間消費電力量の平均値を現行より37%減少させる新基準を設定。1月13日、この基準に基づく星の数(目標達成度)の決め方を明らかにした。
早ければ4月1日にも新基準によるエコポイント制度の運用が始まる。この基準改正で、昨年11月時点で販売されていた薄型テレビの50%近くがエコポイント対象外になる見通しだ。
一時的に消費者の選択肢が狭まることになるため、テレビ販売の減速を招く可能性がある。ディスプレイサーチはこうしたリスクを織り込み、2010年の出荷台数が前年比7.4%増の1365万台と、1ケタ台の成長にとどまると予想している。
自動車も、状況は楽観できない。
国内自動車販売がプラスに転じたことで、日本自動車工業会では「最悪の状況は脱した」(青木哲会長)と見ている。だが、回復力はまだ弱い。
2010年の需要動向は前年比4.1%増の480万台と自工会では予想している。これは補助金の効果を含めての数字だ。「補助金終了時に反動が出てしまう。その後の対策もお願いしたい」。大手メーカー幹部はため息をつく。
自動車は今回の不況以前から、少子高齢化の影響や買い替えサイクルの長期化など、市場縮小には構造的な要因が指摘されてきた。政府の支援策で人為的に販売は底上げされているが、問題が根本的に解決したわけではない。
「減税は簡単にはやめられない。だから、景気対策として導入するのは慎重に考えなければならない」。2008年夏、減速した日本経済を下支えする景気対策を立案した際、ある経済閣僚の側近はこう口にした。特定業界を金銭面で助けるような減税や財政支出は既得権益となりがちで、廃止という「出口」が見つけにくくなるからだ。
エコポイントも特定の商品を買う消費者への減税のようなもの。需要喚起の材料にはなるが、特定業界を対象にする不公平感はついて回る。しかも効果が限定的になっても、業界にポイント依存体質が残れば、消費者にもメーカーにもプラスにならない。エコポイントの光だけでなく、影も冷静に見極める時期に入っていると言えそうだ。
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