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◇アサヒビール・豊かさ創造研究所主任研究員、小原聡(おはら・さとし)さん(37)

 人口5000人余り、東西8・4キロの離島・沖縄県伊江島に広がるサトウキビ畑。一角には、通常の4倍に上る約20本もの茎を持つ巨大サトウキビがある。茎の一部は、地面に倒れ込んでいる。小原聡さんは「お行儀の悪さが作物っぽくないんです」と笑う。この品種こそ、小さな島でエネルギー循環を実現した主役だ。

 サトウキビは通常、茎から砂糖を作り、残りの「糖蜜(とうみつ)」からさらに砂糖を取る。この「糖蜜」や茎の搾りかす「バガス」に、ビール発酵に使う酵母を混ぜてバイオエタノールを生産する。

 アサヒは01年、新規事業の発掘を目指し、研究テーマを社内公募。環境問題に関心があった小原さんのバイオエタノール事業が採用された。しかし、小原さんの最大の悩みは、「糖蜜」などを使い、エタノール生産を本格化させれば、砂糖の収量も減り、砂糖価格の高騰につながりかねないことだった。

 苦労して調査を重ね、出会ったのが、九州沖縄農業研究センター(鹿児島県種子島)の杉本明さんが開発した巨大サトウキビだった。通常、サトウキビは茎が少なく1本当たりの糖分が多い品種が好まれる。これに対して、巨大品種は茎の数が多く、1本当たりの糖分は少ない。だが、茎の数が多いため、栽培面積当たりの糖分は通常の1・5倍に上る。「砂糖の生産を維持しても、バイオエタノールが作れる。先端技術なしで解決できるなんて、まさに『コロンブスの卵』だった」

 小原さんは「ガソリンより安いエタノール」を目標にした。社内からは「どうせ無理」など厳しい声も上がった。製糖の技術なども獲得し、2年がかりで、生産技術にめどをつけた。06年1月には、国などの支援を受け、伊江島の実証実験を開始。畑でサトウキビを栽培し、工場で砂糖やエタノール、肥料を生産し、エタノールの配合燃料を公用車に利用する循環モデルにこぎつけた。最近は精度を高める実験を繰り返し、エタノール生産過程のCO2削減効果は、従来のエタノール生産の57倍にまで高まった。

 「荒れ地を豊かにしながらエネルギーまで取れる。サトウキビは地球環境の改善につながる」。小原さんの夢は膨らむ。【辻本貴洋】=つづく

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 ◇バイオエタノール
 サトウキビやトウモロコシなど植物から取り出した糖を発酵させて作ったエタノール(エチルアルコール)で、ガソリンに混ぜて自動車の燃料などに使う。植物は成長過程で二酸化炭素(CO2)を吸収することから一方的にCO2を出す化石燃料のように地球温暖化につながらないとされる。日本では07年から、首都圏のガソリンスタンドでバイオエタノールを混入したガソリンの試験販売が始まった。

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