■自然災害など「事故」も予測可能
リスクマネジメントは、会社を倒産させないことが第一目的であり、その要因となりうる多額な財務的損失や信用の喪失を発生させないための経営ツールである。リスク管理は法的に強制される対象のものではないのだが、1990年代から2000年代にかけ多発した企業不祥事や事故が、当該企業だけでなく、多くのステークホルダー(利害関係者)に大きな損失を与えたため、企業の責任としてリスクマネジメント体制の構築が法的に要求されることになった。
法律が企業経営者に対しリスク管理体制の構築義務を明確にした判例の第1号は、1995年の「大和銀行(当時)巨額損失事件」である。同銀行ニューヨーク支店の嘱託行員が長期間にわたり米国国債の簿外取引を行い、同行に約960億円もの損失を発生させた事件だ。
この事件の株主代表訴訟判決で、「企業経営者は、職員一人一人を管理することは不可能だ。そのため経営者は職員の健全な業務執行を確保するため社内体制を整える責任がある」との見解を示し、当時の経営者に対して損害を賠償するよう命令した。
2006年に改正された会社法では、施行規則第100条において、「損失の危険の管理に関する規程その他の体制(いわゆるリスクマネジメント体制)」「使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制(いわゆるコンプライアンス体制)」、その他3点の体制を構築することを求めた。
これらの法律は、不祥事の発生した企業経営者が、「知らなかった」「担当者の一存でやった」などの理由で責任逃れできないようにするため、「知らない」ことは経営者として職務不履行であることを法的に明確にした。
一方2000年代には、規制緩和を誤って解釈した企業が安全点検業務を怠り、設備の劣化が原因と思われる火事や事故が多発した。しかし、企業のリスクマネジメントの世界では、従来は事故として扱われた火事や自然災害による被害も、予測できるリスクとして捉えられる。損失が発生した場合、経営者は管理責任を問われる。
組織内でそのリスクを認識しながら、対応する準備体制を実施していない企業は、管理不行き届きであり法令違反と判断され、信用を失墜する。
このほかの法的要請として、04年には上場企業の有価証券報告書にいてリスク開示が義務付けられ、07年には日本版SOX法と呼ばれる金融商品取引法改正が完全施行された。会計虚偽報告や企業不正などで多くのステークホルダーが損失を被ったことを受け、法的に内部統制を義務付けた。リスクマネジメントは、本来リスク社会における必須の経営手法であり、利益を向上させる戦略的ツールとして企業は取り組むべきだ。
≪リスク検定≫
【問題】情報技術の発展によるリスクに関する以下の文章で、
誤った記述を1つ選びなさい。
(1) インターネットで重要な情報を盗まれるリスクが増加した。
(2) コンピューターが稼働しなければ何もできないリスクが増加した。
(3) 専門家並みの情報を簡単に入手でき、情報が氾濫し混乱するリスクが増加した。
(4) ファイアウオールやウイルス撃退ソフトで、ITに関するリスクは完全に防御できる。
【正解】(4)
解説 一度に数百万件という個人情報が流出する危険があるのはITリスクの特長。また、災害などで電力を失いコンピューターを使用できないがために業務のほとんどが停止してしまうことも大きなリスクです。医療業界ではインターネットによる情報の氾濫で、必要以上の混乱を招いています。ウイルス撃退ソフトなども開発が進んでいますが、100%防御するのは不可能です。
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