転倒などの事故が置きやすい水まわりは、安全への配慮が欠かせない。しかしバリアフリー化の際に知識不足から間違いを犯している現場も多い。TOTOに注意点を聞いて、お伝えする。
ある住宅で、トイレタンクの上に出ている金属製の蛇口が折れた。体に障害を負ったご主人が、手を洗おうとする際にバランスを保つため蛇口部分をつかむ。その重さに蛇口が耐えきれなかった。
「高齢者など動きが不自由な人は、周囲にあるものを何でも手がかりにしようとする」と、TOTO・UD推進本部の金子祐子さんは話す。しかし、弱く不安定なものにすがった状態はむしろ危険だ。手すりや支えになる棚などを用意し、しっかり体を支えられるようにしておかなければならない。冒頭の住宅では、必要な位置に手すりを設け、ご主人の動きに対応させるようにした。
(写真:TOTO)
L字形の手すりの向きに注意
このように、安全にトイレを使うために手すりは有効な役割を果たす。ただし取り付け方を間違えると使いにくいばかりか、狭い室内での動きの邪魔にもなってしまう。金子さんによると、犯しやすい過ちは3つある。
第一は、L字形の手すりの向きだ。便器に座った人に対し、下側の横バーが縦ポールの向こう側に延びるよう設置した例をしばしば見かける。しかしこれは逆向き。正しい横バーの位置は、便器の横に延びるようにしなければならない。なぜか。
便器まわりの手すりは大きく2つの役割をもつ。人が立ち座りする際の手がかりとなることと、便器に座っている時に体を安定させることだ。前者では主に縦ポール部分が機能し、後者では主に横バーが使われる。横バーは、便器の横に設置しないと用をなさない。
手すりの意味を理解すれば、こうした初歩的な間違いを犯さずに済む。もちろん、向きと同時に設置場所も大切だ。TOTOではL形手すりを設置する際の標準寸法を、縦ポールは便器の先端から250mm程度、横バーは床面から650mm程度としている。
間違い1
リフォームで手すりを設ける場合
第二の過ちは、リフォームで手すりを設ける場合に起こしやすい。下地の受け材がない壁面にそのまま手すりを取り付け、グラグラと不安定な状態にしてしまう。「施工者は、手すりにかかる力を過小評価しがち。でも全体重をかけることもあるから十分に強度を確保する必要がある」(金子さん)
間違い2
リフォームで既設の壁に手すりを設ける場合には、壁の上から補強板を柱の間に渡してビス留めし、この下地に手すりを固定する。新築時なら、下地にコンパネを入れておけば、将来手すりを設置したり、手すりの位置を変えたりといった状況にも柔軟に対応できる。
棚板をどう設置する?
第三の過ちは、最近よく使われている棚板の設置場所だ。棚板は単なる飾り棚ではなく、手すりの役割も兼ねる。したがって横バーと同程度の高さに設置するのが基本。TOTOでは、紙巻き器(トイレットペーパーロール)と一体化した棚の場合は、紙巻き器を使いやすいように、もう少し高めの700mmを標準としている。
間違い3
もっとも、ここで挙げた数値は目安に過ぎない。将来対応で手すりを設けるのなら一般的な寸法を押さえておけばいいが、体の自由が利かない家族がいる場合はその体格や動きに配慮する必要がある。例えば、片マヒなど体を動かせる範囲が限定された人なら、その人が使える位置に手すりを付ける。握力が弱い人であれば、手すりよりも面で支える棚のほうが安心だ。 ただ難しいのは、トイレ内での動きを本人に聞いてもなかなか正解が返ってこないことだ。立ち座りの際、意識せずに何かをつかんでいることも多く、質問すると「手すりがなくて大丈夫」という答えが返ってくる。本人の言うことだけを頼りにせず、使い手の動きをできるだけ観察し、情報収集する作業が欠かせない。介護が必要な家族の場合には、担当しているケアマネジャーに日常の動きについて聞くといった方法もある。
「手すりの設置工事自体は小規模でも、キッチンや浴室などほかのリフォーム工事のきっかけになることは多い」と金子さんは示唆する。手すり一つとあなどらず、正しい工事をして顧客の信頼を得ることが何よりも大切だ。
(イラスト:笹沼真人)
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