林野庁は6月21日、都道府県の職員を対象に「公共建築物木材利用促進法」に関する説明会を東京都内で開催した。説明会では、法律の概要のほか、国が木材利用の目標などを定める「基本方針」などの方向性を示した。自給率の向上を目的に建築分野での木材需要の拡大をうたう同法は、5月26日に公布された。2010年11月25日までに施行する。
説明会の冒頭で林野庁長官の島田泰助氏(写真左)は「非木造=近代化という流れが変わる潮目としたい。できるだけ早期の施行を目指し、基本方針の作成を進めている」と語った (写真:日経アーキテクチュア)
同法に基づいて国が定める「基本方針」には、国が自ら整備する低層の公共建築物を原則としてすべて木造とし、中高層建築物は内装で木質化を図る、といった目標を記述する見通しだ。使用する木材は、グリーン購入法の対象に限る方針だ。
林野庁によると、公共建築物の年間着工床面積である約1500万m2の4割に当たる約600万m2が低層建築物だ。このうち非木造は約500万m2を占めており、「木造化」の対象となり得る。仮に500万m2の半分程度を木造にすれば、木材需要は丸太換算で年間70万~80万m3ほど増し、現状で8%程度にとどまる新設の公共建築物の木造率は25%まで向上すると農林水産省は試算している。
地方公共団体は、国の基本方針に即した木材利用の方針を定めることができる。林野庁の担当者は「既に都道府県で定めている木材利用の方針や目標などがあれば、それをベースにしてほしい。政省令案に対する意見を公募する夏ごろには、国の基本方針案を示したい」と説明する。
木造とする公共建築物の種類は、作成中の政令の中で具体的に示す。学校、老人ホームといった社会福祉施設、病院・診療所、図書館や青少年の家をはじめとする社会教育施設、体育館、公共交通機関の待合所、公務員宿舎などを対象にする見込みだ。
政令では、製材会社などが作成した「木材製造高度化計画」を農林水産大臣が認定する制度の詳細を定める。公共建築物に用いる「長くて太い」木材などを円滑に供給できるようにする狙いがある。製材会社や林業従事者に対して都道府県が資金を無利子で融資する「林業・木材産業改善資金」の償還期間を、10年から12年に延長する方針だ。また、耐火性や強度が優れた木材製品を企業が開発する場合に、消防庁消防大学校の消防研究センター(東京都調布市)を、通常の半額で使用できるようにする。
説明会では、木造建築物に関する建築基準法の規制について、会場から質問が上がった。次ページ以降に、主な質問と回答を示した。
「混構造を推奨する」
――防火規制にかからない低層建築物を木造にするとの説明だが、公共建築物木材利用促進法では、木造の「耐火建築物」は対象にしていないのか。
林野庁 建基法の性能規定化によって可能となった木造の耐火建築物を否定するものではない。耐火建築物を求められないケースは木造で建てやすいので、まずはこれを木造にしよう、という考え方だ。
――公共建築物木材利用促進法では、建基法などの規制のあり方について検討していくと記述している。現段階で何らかの規制の見直しを想定しているのか。
林野庁 別の法律の規制のあり方について言及したという点で「画期的」なものだ。ただ、具体的に何を見直すかを想定しているわけではない。木材に関する技術開発が進むなか、現状に適さない規制があれば直していく、という意味合いだ。(行政刷新会議の)規制・制度改革の委員会が発表した報告書では、耐火構造が求められる規模などの基準の見直しについて触れている。各省庁はこれに基づき、状況を見ながら制度を見直すことになるだろう。
――鉄筋コンクリート造や鉄骨造などとの混構造にすると構造計算適合性判定が必要になるなど、事業を進めるのが難しいケースもある。規制を緩和する予定はあるのか。
林野庁 審査者が評価できないなど、実質的に建てることができない状況がある。(行政刷新会議の)規制・制度改革の委員会や、国土交通省で開催している建基法の見直しを検討する委員会でも議論がなされており、技術的な検討が進められている。
法律に基づいて定める「基本方針」の中では、コストダウンの観点から混構造を推奨したい。先日、文部科学省と林野庁が共同で発表した学校施設の事例集「こうやって作る木の学校」でも、混構造を採用することがコスト面で有利だと解説している。
――官庁営繕基準については、どのように検討を進めているのか。
国土交通省 これまでは鉄筋コンクリート造や鉄骨造で公共建築物をつくることを前提としていた。このため木造では、標準仕様書はあっても設計や計画に関する基準がなかった。現在、作成を進めている段階だ。
林野庁では同法に関する相談窓口を設け、Q&A集をウェブサイト上に公開する予定だ。
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