「それは、そういやぁその通りだが……」
ある消費者金融の事務所。強面の社長が、Aさんの言い分を認めた瞬間だ。
Aさんは、この消費者金融から50万円を借りたが、返済額はいつの間にか500万円に膨れ上がっていた。いくら不当だと訴えても取り合ってくれない。そこでAさんは鞄に録音機を仕込んで事務所に出向き、約束の金利では返済額が500万円になるはずのないことを縷々述べ立てた。そして、ついに冒頭の一言を引き出し、それをバッチリ録音したのだ。
「社長がこちらの言う通りだと認める発言をし、しかもそれを録音したのだから、これは圧倒的に信憑性の高い証拠だ」
Aさんは、そう考えた。確かに、テープに録音された肉声は証拠として絶対的な力があるように思える。なにしろ、相手が本当にそう言ったのだから。しかし……。
「一般的に、録音テープは証拠価値が高いと認識されているようですが、実は、そうとは限らないんですよ」
こう語るのは、NOVA事件でこれまで泣き寝入りするしかなかった生徒側を代理した、杉浦幸彦弁護士だ。
杉浦弁護士によれば、紛争解決を目的とする民事裁判では、他人の人格権を侵害してとられたようなものでない限り、基本的にどんなものでも証拠として採用される。しかも刑事裁判と異なり、証拠には、その真贋もさることながら、むしろ裁判官を“説得する力”の有無が問われるのだと杉浦弁護士は強調する。しかし、録音テープには特有の弱点があるのだ。
「つまり、その証拠によって裁判官が『確かにそうだな』と思うかどうかが問題なわけで、それを証明力と呼びますが、テープは意外に証明力が弱い。なぜなら、会話って結構いい加減なんですよ」
確かに、会話ではその場しのぎやうろ覚えでデタラメを口にすることが多い。
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