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会社の就業規則で禁じられている自転車通勤をしていた社員が、通勤途中に交通事故に遭った場合、労災(労働者災害補償保険)は認められるのだろうか。

就業規則に違反しているわけだから、事故とはいえ、労災給付をもらうのはムシがよすぎるようにも思える。しかし、労働上の法律問題解決に長年携わる、中町誠弁護士は、「届けと異なる通勤方法をとっていても、通勤災害としては認められる可能性が大きい」と話す。

労災制度は、企業などに勤める従業員が、仕事中に被った不慮の身体的被害について、公的に補償を実施する保険制度である。ここでいう「仕事中」には、始業から終業までの時間帯だけでなく、通勤中まで含むことになっている。

そもそも労災保険法上にいう「通勤」とは、労働者が就業に関し、住居と就業場所との間を、合理的な経路および方法で往復する行動をいう。「就業規則に基づき会社に届け出た方法」という限定はなく、客観的に見て「合理的な方法」でさえあれば、法律上の「通勤」だといっていい。したがって、就業規則を遵守しない通勤方法をとっていても、通勤災害として補償される余地は十分にあるのだ。

ただ、自転車通勤については、労災以外の問題が残る。電車通勤だと届けていながら、実際には自転車通勤をし、会社から支給された交通費を不正に得ていたならば、就業規則違反で懲戒の対象になる場合も考えられる。さらに、長期間にわたる詐取で明らかに悪質な場合は、詐欺罪で立件される可能性もある。

逆に、以上の判断とは無関係だが、就業規則で社員の自転車通勤を禁止することがそもそも許されるのかどうかについても確認しておこう。

実は、就業時間以外の行動について、会社は従業員を拘束できないのが原則だ。この原則によれば、就業時間外である通勤時間について、その通勤手段を拘束することはできないことになる。

しかし、長距離を往復したり、交通量の多い幹線道路を利用したりするなど、通勤中に事故を起こす可能性が高いと考えられる方法をとる従業員に対しては、会社が安全配慮義務の観点から、就業規則で通勤手段を電車やバスなどの公共交通機関のみに制限することも、会社が交通費を負担するなら許されよう。

また、労働基準法では、就業規則を作成または変更する場合には、従業員の過半数を代表する者や労働組合の意見を聴かなければならないことになっている。そうした民主的手続きを経ることにより、あまりにも不当な就業規則は作成できないよう担保されているのだ。

したがって、合理的な理由があり、必要な手続きを踏んでいれば、就業時間外に関する就業規則であっても原則有効であるといえる。

最後に、帰宅途中の「寄り道」はどの程度まで許されるかについても考えてみよう。

「日用品の買い物をするために、スーパーやコンビニに立ち寄る程度なら、その後通勤経路に戻った場合の事故は補償の対象。ただし、喫茶店や居酒屋へ一定時間立ち寄った場合、その後は通勤とは無関係と見なされ、立ち寄り後の事故は、補償されないと考えられる」(中町氏)

補償されるかどうかを分けるのは、寄り道の目的だ。業務と関係が深いもの、たとえば、同じ「飲み」でも、取引先との仕事上の会食後の事故などは、労災が認められる可能性がある。また、業務と関連がなくても、日常必要となる用事、たとえば通院、用便、投票などに立ち寄ること、会社帰りの英会話スクール通いなども、その後の事故は補償の対象となるのが通常とされる。

労災制度は、会社で働く従業員を、意外と手厚く保護してくれるもののようだ。

「仕事中の事故じゃないから、きっとダメだろう」とあきらめるのは、場合によっては早すぎるかもしれない。

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