風呂に入っているときや寝ている間など、油断している隙に、携帯電話のメールや着信履歴を家族や恋人に見られて、浮気などの隠しごとがバレ、いきなりの修羅場を体験した過去のある読者も、決して皆無ではないだろう。法律上も、既婚者の浮気は「不貞行為」として離婚や慰謝料の原因になりうる。
では、浮気などの証拠を見つけようとして、持ち主に断りもなく、携帯電話の記録を覗き見ることに、違法性はないのだろうか。
「結論から言えば、少なくとも現行法上、刑事処罰の対象にはなりません」と話すのは、ネットトラブルに関する著書もある宮本督弁護士。
ただ、他人の携帯電話に届いたメールを覗き見ることは、「通信の秘密」を侵す行為。他人宛ての手紙を勝手に読もうとして、封筒の口を破る行為に近い。だとすれば、信書開封罪(刑法133条)に該当しないのだろうか。
「信書開封罪の対象である『信書』とは、特定の人に意思を伝達する文書であり、郵便の封書が典型。携帯電話のメールは『信書』に含まれないので、処罰の対象外になります」(宮本弁護士)
それでは、持ち主が設定したパスワードを入力しなければ携帯電話を使えないようにしていたのに、他人が持ち主の誕生日などを適当に入れたことで、偶然にパスワードが通り、保存されていたメールを勝手に読んだ場合は、不正アクセス罪(不正アクセス行為禁止法3条、8条)に該当しないのだろうか。
「不正アクセス罪とは、情報を管理するサーバーコンピュータに、不正入手した他人のIDやパスワードを使って侵入することにより、他人になりすますネット犯罪です。たとえば、自分のパソコンで他人のふりをして、ウェブメールのサイトにログインし、メールを盗み見るなどの行為が想定されます。一方、他人が携帯電話を使えないよう設定する場合のパスワードは、いわば携帯電話のスイッチ代わりに用いられるものでして、そのパスワードを破ったからといって、不正アクセス罪が成立するわけではありません」(宮本弁護士)
しかし、携帯電話は、個人情報の塊だといわれて久しい。電話帳を見れば、仕事関係や交友関係が一目でバレる。その人に、何月何日何時何分、誰からどのような連絡があったか、その人が誰に発信したのかもメモリに残されているのだから、人間関係の濃淡まで筒抜けだ。こうした個人情報を盗み取る行為を、犯罪として取り締まらないのは、なぜだろうか。
宮本弁護士は「携帯電話のメールの覗き見が実際に問題になるとしても、浮気がバレるなどのプライベートな場面が大半です。何か大きな社会的問題でも生じない限り、法規制の動きは起こらないと考えられます」と話す。
その一方、携帯電話に保存された情報を勝手に覗かれたことで、プライバシーが侵害され、精神的な苦痛を受けたとして、民事上の慰謝料を請求する余地はあるという。
「ただ、慰謝料が認められるとしても、せいぜい数万円から10万円程度でしょう」(宮本弁護士)
それでは、他人の携帯電話を覗くとして、どの段階からプライバシーの侵害が発生すると考えられるのだろうか。
宮本弁護士の説明によると、メールの内容まで読まなくても、いつ、誰からメールが届いたのか(誰にメールを出したのか)のリストを覗いただけで、その人のプライバシーを侵害することになり、慰謝料の支払いを求められる可能性があるとのことだ。通信の秘密の保障は、通信の内容だけでなく、通信そのものの「存在」にまで及ぶためである。
とはいえ、不貞の慰謝料に比べれば、はるかに少額。メールの覗き見より、浮気のほうが「重罪」なのだと心得たい。
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