日経コンストラクションでは、主要な建設業会社を対象に2010年4月から11年3月までに期末を迎えた決算を調査し、9月12日号の特集記事に掲載した。そのデータなどを踏まえて、土木の主な専門工事分野の市場動向を解説する。初回は、補修と橋梁を取り上げる。
補修/橋の長寿命化修繕計画の作成が大詰めに
今後の増加に期待がかかるのが補修市場だ。日経コンストラクションが分野を問わずに補修工事の売り上げを調査したところ、2010年度の上位10社のうち7社が前期よりも売上高を伸ばしていた。増加した7社のうち、5社が10%以上の伸びだった。
多くの社会資本が高度成長期に集中的に整備され、補修の時期を迎えている。なかでも耐震改修を含めて増加が予想されるのが橋だ。国土交通省では、事後保全から予防保全に転換するため、橋の長寿命化修繕計画の作成を推進している。
自治体に対しては修繕計画の作成に補助金を支給しており、最終年度が都道府県と政令都市は2011年度、市町村は13年度と期限が目前に迫っている。これに対応するため、自治体から建設コンサルタント会社への点検業務の発注が増加している。
既に長寿命化修繕計画の作成を終えた国交省管轄分については、「2年ほど前から予防保全工事が増加している」とショーボンド建設の岳尾弘洋執行役員本社技術部長は話す。ひび割れの補修や断面修復を施したうえで、コンクリートの表面を被覆して劣化を防ぐような工事だ。長寿命化のための建設業工事が今後、国の機関から都道府県、さらに市町村へとどう展開していくかが注目される。
東日本大震災で被害を受けた道路については、高速道路や幹線道路を含めて、通行可能にするための緊急補修が終了した。今後は第2段階に相当する本格的な復旧工事が発注される。
一方、施工箇所が分散する補修工事にとっては採算性が課題だった。しかし、最近では採算性が改善するよう、各発注者が積算の仕方などを見直す動きがあるという。
また、発注者は性能を重視する傾向にある。例えば、これまでコンクリートの補修には、様々な劣化原因に対応できる万能な材料が使われてきた。しかし、最近では塩害や中性化、アルカリ骨材反応などそれぞれの劣化原因に応じた材料を用いることで、再劣化防止や耐久性向上を図るようになっている。
PC橋/道路の新設抑制で減少傾向
道路の新設が抑制されるなか、橋の新設工事の減少傾向が続いている。プレストレスト・コンクリート建設業協会がまとめた会員31社の2010年度受注実績は2170億円で、これまでにない低調ぶりだった。ピークだった1999年度に比べると4割以下にまで落ち込んでいる。
日経コンストラクションが調査したPC(プレストレスト・コンクリート)の売上高ランキングを見ても、上位6位までがそろって減収となり、そのうち5社が20%以上の落ち込みだった。これには、PCを手掛ける大手の多くが指名停止や営業停止を受けたという特殊事情もある。
しかし、「11年度も増加が期待できる明るい材料が見当たらない。せめて横ばいで推移することを期待する」と建設業協会の土屋雅央事務局次長は話す。
一方、PCの補修市場は、新設に比べて歩掛かりが良くない。さらに、設計段階では劣化状況を詳細に把握できないために、発注内容が実情に合わず、設計変更が付きものになっている。
そこで建設業協会では、2010年から国交省の各地方整備局との意見交換会で、これまで分離していた設計と施工の一括発注を求めている。さらに、業種区分で一般土木に含まれているPC工事を分離し、新たに『PC建設工事業』を設けることも要望しているという。
PC橋は、補修を含めて専門技術などのノウハウが必要で、特に自治体では技術者が不足している。これに対応するため、同協会では6月に「PC技術相談室」を開設し、技術支援に取り組んでいる。6月に約10件、7月には約40件の問い合わせがあった。こういった施策によって専門技術力を生かし、活路を見いだしていく考えだ。
東日本大震災で津波の被害が大きかった沿岸部の復興では、人工地盤を活用したまちづくりを提案している。道路の高架化に合わせて、例えば臨海部の住宅や港の荷揚げ場をかさ上げする。基礎はコンクリート杭、上部はPC梁を用いて高さ20m程度の人工地盤を造る構想だ。
鋼橋上部/今後の増加は期待薄
鋼橋もPC橋と同様に、道路の新設抑制を受けて、今後の増加はあまり期待できない。日本橋梁建設協会がまとめた10年度の会員37社の受注実績を見ても、件数が842件で前年度より81件減少。重量は29万6700tで、3%の減少だった。
大半を占める道路橋については重量が7%増加したが、一時的な現象とみられる。「中日本高速道路会社や首都高速道路会社、阪神高速道路会社が大きく伸びたためだが、全体工程の流れのなかで発注時期が集中したにすぎない。今後、増加する要素は見当たらず、横ばいで推移するのではないか。かつては道路整備5カ年計画があり、ある程度は見通すことができたが、今は先が読めない」と同協会の北村愼悟事務局長は話す。
かつて、道路では新東名・名神、鉄道では北陸新幹線などが注目事業だったが、既に工事は終盤を迎えている。こうしたなかで期待できる事業としては、京浜港の扇島で国交省が計画している斜張橋や、阪神高速湾岸線の西伸部、部分開通している三陸縦貫自動車道の残区間などがある。
また、「津波の被害を防ぐため湾口部では、1スパンで長さ200~300m程度の橋を架ける構想がある」と同協会の出嶋慶司業務部長は話す。アーチ橋や吊り橋を採用して水中には橋脚を建てない。
一方、同協会では東日本大震災で被災した橋の修復について、調査・詳細設計付きの工事発注を提案している。分離発注ならば調査から完成まで12カ月かかるところ、5カ月短縮できるといったシミュレーション結果もある。
さらに、橋単位ではなく、一定区間にある橋を一括して発注することも求めている。これによって、人員や機材などが分散して非効率になるのを防ぐことができる。
そのほか、同協会では「橋の相談室」を設置して、新設事業や震災の復旧・復興に対応できる技術資料も作成。自治体などの要請に応じて技術支援できる体制を整えている。
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