改修設計で必ず出てくる用語「既存不適格」。この言葉の本当の意味を知っているだろうか。なぜ、改修を進めるうえで既存不適格の証明が必要になるのか。今回は、その疑問を解き明かしていこう。
前号に引き続き、2009年に福岡県・田川市に完成した高齢者向け賃貸住宅「田川後藤寺サクラ園」を例にして、改修設計のノウハウを見ていこう。
この物件のオーナーは、廃墟同然だった建物を全面改修し、高齢者施設に再生するつもりで購入した。ところが、設計の依頼を受けた青木茂氏が調べてみると、新築当時の確認済み証や検査済み証、設計図書、工事記録といった資料が皆無。いつ誰が建てた建物なのかさえ分からなかったという。
そんな“身元不明” の建物を全面改修するには、当然のことながら建築確認申請を出さなくてはならない。その際に必要になるのが、既存不適格の証明だ。廃墟同然の現在の建物が現行法規に適合しない部分があるのは当然だ。それでも新築当時はきちんと法規に適合した形で建てられたことを証明しなければならない。なぜなら、新築当時から違法な建築物は、増改築の確認申請を出すことができないからだ。
設計者の青木氏は、リスクの高い物件であることを考慮して、二面作戦を取った。既存不適格の証明作業を進めつつ、この建物が本当に改修に耐えうるかどうか、構造面から調査することにしたのだ。躯体が使い物にならなければ再生は不可能。「耐久性の検討」と「法規問題のクリア」を並行して進める必要があると考えたという。
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