Archive for » 2月 15th, 2012«

東日本大震災の被災3県(岩手、宮城、福島)などが発注する工事で入札不調が多発している問題で、国土交通省は14日、対策を正式決定した。不調の大きな原因となっている技術者不足を補うため、被災地と被災地外の業者が共同企業体を組む「復興JV」制度を創設。主任技術者の兼任要件も緩和する。労務費の高騰に対応して労務単価の見直し期間を短縮し、実勢価格を積算に反映させる。

                     
 国交省は同日、自治体や建設業界団体と「復旧・復興事業の施工確保に関する連絡協議会」を開き、これらの対策を公表した。今後、復興工事の発注が本格化することから、2月中に関係機関に通知し、対策を実施に移すよう要請する。対策は、人材確保と予定価格の積算適正化という二つの視点から打ち出した。

                  
 このうち人材確保策では、今後、大量の工事が集中的に発注されることを想定し、被災地の建設業者が被災地外の建設業者と共同で施工する復興JVの制度を創設。2月中の試行を目指す。工事現場を管理する主任技術者は現場ごとの専任配置が原則で、例外として兼任を認める場合の要件も厳しいため、これを緩和。一体性・連続性があり、現場の間隔が5キロ程度(車で10分程度)までの近接した工事を同一業者が施工する場合には、発注主体が異なっても、1人の主任技術者が2カ所まで現場を掛け持ちで管理することを認める。さらに、小規模な修繕工事を包括発注する場合、昨年11月に創設した「地域維持型JV」制度を活用できることや、工事の契約締結から現場施工着手までの期間は主任技術者・監理技術者の専任配置が不要なことも各自治体にあらためて周知する。

                             
 予定価格の積算適正化では、直近の労務費の実態を反映させた新たな労務単価をまず2月中に公表。労務単価の改定に合わせ、工事請負契約にある「インフレスライド条項」を適用した請負代金額の変更も実施する。被災地では複数の工事をひとまとめにして発注するケースが増えていることに対応。こうしたケースでは、発注ロット(1件当たりの発注規模)が大きくても、施工実態に合わせて間接工事費は各工事ごとに積算する。被災地外からの労働者を確保する場合は、必要になる追加費用を積算で考慮する措置を取る。

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「また型枠大工に逃げられた」。ある大手ゼネコンの下請けとして職人の手配を任された宮城県内の建設会社の社長は肩を落とした。

 なじみの型枠大工に示した単価は、材工込みで型枠1m2当たり4500円。2000円台前半が相場だった震災前と比べて2倍の値段だ。

 型枠に使う合板などの材料費は大きく上がっておらず、単価上昇分の多くは労務費に充てられる。それでも職人が集まらない。

 「震災で耐力不足が判明した校舎の建て替え工事が先月から始まった。延べ面積2万m2の校舎をわずか1年で建てる。職人を十分に配置できないと、工期に間に合わない」と、社長は気をもむ。

 宮城県内でハローワークを通じた建設業の求人数は2011年11月時点で約5700人。一方、建設業の仕事を望む求職者は、求人数の4分の1にとどまる。職種別に見ると、建設作業員の有効求人倍率は7倍以上に跳ね上がった(図1-1)。

図1-1 有効求人倍率の推移。ハローワーク仙台管内の職種別有効求人倍率を示す(資料:厚生労働省宮城労働局)
図1-1 有効求人倍率の推移。ハローワーク仙台管内の職種別有効求人倍率を示す(資料:厚生労働省宮城労働局)
図1-2 宮城県発注工事の入札結果。宮城県が11年6月から同年11月までに土木一式工事について一般競争入札を実施した結果(資料:宮城県)
図1-2 宮城県発注工事の入札結果。宮城県が11年6月から同年11月までに土木一式工事について一般競争入札を実施した結果(資料:宮城県)

 

わずか2年のうちに4割減

 宮城県内で約40人の型枠大工を抱える専門工事会社によると、単価が高騰したのは11年10月ごろから。「それ以前は、震災前に安い単価で契約した工事を続けていた」と言う。震災前の仕事が一段落して、各社が震災後の新たな工事を受注し始めた途端に、職人不足が一気に表面化した。

図1-3 宮城県内の型枠大工の数。日本建設大工工事業協会宮城支部が協会に加盟する専門工事会社を対象にアンケートした結果。11年の調査は8月に実施。09年は29社、11年は26社から回答があった(資料:日本建設大工工事業協会宮城支部)
図1-3 宮城県内の型枠大工の数。日本建設大工工事業協会宮城支部が協会に加盟する専門工事会社を対象にアンケートした結果。11年の調査は8月に実施。09年は29社、11年は26社から回答があった(資料:日本建設大工工事業協会宮城支部)
図1-4 技能労働者の就労形態。国土交通省の「建設技能労働者の就労状況等に関する調査」を基に作成した。臨時雇とは、1カ月以上1年未満の期間を定めて雇われる職人を指す(資料:国土交通省)
図1-4 技能労働者の就労形態。国土交通省の「建設技能労働者の就労状況等に関する調査」を基に作成した。臨時雇とは、1カ月以上1年未満の期間を定めて雇われる職人を指す(資料:国土交通省)

 

 型枠大工はどこに消えたのか。

 まず、08年のリーマンショックによって民間の建設投資が縮小。ゼネコンが工事を安値で奪い合い、手取りの減った職人は他産業への転職や引退を余儀なくされた。

 そこに東日本大震災が発生して、型枠大工の関わる躯体工事が数カ月中断。その間、被害が少なかった建物を中心に、傷んだ天井や間仕切り壁を補修する内装仕上げ工事が出始めた。子育てや住宅ローンを抱える若い型枠大工は、収入目当てにこうした職種へ移った。

 宮城県内の型枠大工は、わずか2年のうちに4割減った──。こんな調査結果がある(図1-3)。

 建設投資の縮小は、職人の就労形態も変えてきた。会社の固定費を削るなどの目的で、常雇と呼ぶ1年以上の契約で雇われる職人が減り、自営業主や一人親方が増加(図1-4)。その結果、若手を採用して育成する仕組みが崩れた。

 「にわか職人」。復興の工事現場では今、こう呼ばれる素人同然の職人が増えている。「鉄筋同士の結束さえ満足にできない人もいた」。ある設計事務所の工事監理者は驚きを隠さない。

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