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 「エコハウス」は、本当に省エネなのか、快適なのか――。建築環境の研究者である東京大学大学院の前真之准教授はこんな疑問について、5月に上梓した『エコハウスのウソ』で論じている。

  書籍の冒頭には、「冷房」と「夏への備え」に関するQ&Aが並ぶ。住宅の温熱環境に詳しい前氏は、夏でも涼しく、環境に優しい住宅設計の条件について、どのように考えているのだろうか。6月早々に台風が上陸し、真夏を控えた今、専門家の見解に耳を傾けてみよう。

 小さなエアコンで冷やせる空間をつくる

  前氏はまず、「エアコンでつつましく冷房できること」を挙げる。
 人間は、湿度が高いと許容できる暑さ(気温)が大きく下がってしまう。汗が乾きにくくなり、体温調整が困難になるからだ。高温多湿の日本では、エアコンに頼らざるを得ないのが実情だ。従って、電力ピーク時の節電に配慮し、なおかつ猛暑を快適に過ごすことを考えるなら、小さなエアコンで冷房できる空間を設けるのが合理的だと、前氏は指摘する。

  そのうえで、一般にエコハウスとして紹介されている住宅について警鐘を鳴らす。特に大開口部を設け、間仕切りもない大空間は要注意だと言う。

  環境に優しい住宅というと、エアコンを用いず、通風や扇風機で空気をかき回し、住宅内を涼しくするという印象がある。しかし、多湿の日本では、風をかき回すだけで空間を涼しくするのには限界がある。前述の通り、猛暑にはエアコンに頼る必要性が出てくるが、特に大開口部と吹き抜けを設けた開放的な空間では、人のいる部分をエアコンで冷やすことが難しい。家全体を過剰に冷やすことになって、エネルギーを浪費することになりかねないと言う。

  そもそも家庭の冷房は、使う季節も時間帯も限られる。住宅で1年間に使われるエネルギー消費量に占める冷房の割合は、九州・四国地方でも4%を切る。関東地方では2%にも満たない。通風に配慮するにせよ、小さなエアコンで快適に過ごせる空間としておくことが、「夏涼しく、環境にも優しい」住宅設計の秘けつだ――。これが建築環境の研究家としての、前氏の意見だ。

 気まぐれな風をつかまえるように窓を配置

  前氏は「どの方角から風が吹いても、室内に取り込めるように窓を配置すること」を、夏でも涼しい住宅設計のポイントとして挙げる。

 風は文字通り気まぐれだ。周辺の地形や近隣に建つ建物の影響も受ける。季節によっても変わる。ウェブサイトでは、卓越風(ある地点で月ごと、または年間を通して一番吹きやすい風向き)を調べられるが、必ずしもこのデータ通りに風が吹くとは限らない。
 
 敷地周辺の状況を十分に調べ、隣接する建物との間隔を取り、バランスを考えて窓を配置する。重要なのはこうした平面計画だと、前氏は指摘する。

 注意点は、「西窓は小さくすること」。2m×2m(4m2)の西窓から入る日射熱は、ガラスの透過率を8割とすると約2000Wに達する。冷蔵庫とテレビ、照明、パソコンといった家電に、実は発熱源である人間(家族)が発する熱を合計すると、一般的な家庭で1000W程度。つまり、

4m2の西窓からの日射熱=(家電+家族の発熱)×2

 ということになる。できるだけ西側には窓を設けないに限る、と前氏は結論付ける。

 もう一つ、「人がいる場所に風が通るようにすること」も設計上の注意点だと言う。通風には、室内の熱気を取り除く「排熱」と、「人体周りに風を起こして冷却する「採涼」という、2つの効果がある。人がいるリビングなどに風が通らなければ、採涼効果は薄れる。廊下ばかり風通しが良くても意味がないのだ。
 
 前氏は「言われてみれば当たり前の常識をちょっと意識するだけで、多くの問題は解消できる」と訴える。『エコハウスのウソ』では「冷房」「夏への備え」以外にも、「吹き抜け・大開口」「太陽エネルギー」など6つの観点から、一般に流布している常識の真偽を、多くの調査結果を基に分析している。この夏、『エコハウスのウソ』に指摘されている「新常識」で、目からうろこを落としてみてはどうだろうか。

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