TPP加入 建設産業の崩壊招く / 建通新聞

京都大学の藤井聡教授は23日、環太平洋連携協定(TPP)に日本が加入した場合、コンサルタントと地方建設業への致命的打撃を含め、建設産業の崩壊につながる可能性があると問題提起した。物品・サービスと建設工事など政府調達の国際調達基準が地方自治体でも大幅に引き下げられる可能性と、国際調達件数が急増することで行政手続きが煩雑化・長期化し、地方自治体発注工事を含め発注時期が大幅にずれ込むことで、コンサルを含む国内企業の減収と競争激化、破たん増加につながることが理由。農業が焦点になりがちなTPP加入問題は、建設産業界にも大きな影響があることに警鐘を鳴らした格好だ。
 藤井教授は、自民党の「TPP参加の即時撤回を求める会」(森山裕会長)が開いた23日の会合で、TPP加入による建設産業界への影響について解説。今後のTPP枠組みの主導権を狙うオバマ大統領を始め米国首脳のこれまでの発言と米国の経済状況、TPPに先行して進む環太平洋戦略的経済連携協定(P4)の政府調達基準と国内の現状を比較した試算を基に、TPP加入は、建設産業界に限定的なメリットしかもたさらない一方で、建設産業界と日本の社会基盤整備に深刻な被害を与える可能性を示唆した。
 具体的にはオバマ大統領の2011年一般教書演説で「アメリカの雇用を促進するような協定にのみ署名する」など複数の発言を踏まえ、TPPの米国の狙いは「日本への輸出を拡大し、米国内の雇用を創出する」ことであり、「関税をなくし円高ドル安を誘導しているから、いまTPPに加入しても日本の輸出は伸びない」とした。
 その上で、TPP加入が公共事業の停滞や建設業界のさまざまな社会的規範・慣習の解体、国内建設市場への海外企業促進、建設デフレ、社会インフラの質的低下を招くと警鐘を鳴らした。
 そのため日本が今後取るべき戦略として、日本は積極財政による内需拡大でデフレを脱却し、所得向上と経済成長を果たした上で、米国が日本に求める輸入拡大へつなげることで日米双方ともメリットを享受すべきと主張した。
 藤井教授が建設産業界への影響として指摘する非関税障壁撤廃の可能性については、すでに米国は、これまでの日米規制改革要望で、地域要件撤廃などを盛り込んでいた。
◆建設産業界・社会基盤整備への影響
①国際入札範囲の拡大と公共事業の停滞
・TPPのベースであるP4協定(*)が採用されると、建設は一律500万SDR(7.65億円)、サービスが5万SDR(750万円)。
 現在、日本はWTOで建設が国450万SDR(6.9億円)、地方1500万SDR(23億円)、サービスは国45万SDR(690万円、地方150万SDR(2.3億円)。
・建設で地方発注案件が約3倍、サービス(コンサルなど)が国で約9倍、地方で約30倍、国際入札が拡大することで、公示期間の長期化と英文公文書などで行政経費の肥大化と工事発注時期が現行より大幅にずれ込む可能性。
②非関税障壁の撤廃による外資参入の現実化
・災害復旧支援などへの対応などが非関税障壁として撤廃要求の可能性。結果的に現行の慣習が否定され、復旧活動の担い手も喪失。
・労働市場の自由化や、発注ロット拡大、地域要件のほか配置技術者制度などローカル規制撤廃の外圧実現で海外企業が国内参入
③外資参入の現実化による建設産業の秩序崩壊
・現状のWTO基準からP4基準で国際入札になると、建設工事で、地方自治体などの発注案件が現状年間数件から最大100件程度に拡大。コンサル業務も地方発注は数件から1万件以上、国発注は600件程度がほぼすべて対象になるなど、国内で建設、コンサル合わせ1兆円規模の国際競争入札市場が誕生。
・競争激化による建設デフレはさらに深刻化。特に地方建設業者は致命的打撃を受け、建設・コンサル企業の減収と大量倒産の可能性も
④社会インフラの質的低下
・非関税障壁撤廃圧力による、除雪・災害復旧対応地区の空白地帯拡大、国内建設業の特徴であるモノづくり重視の業界慣習喪失で、社会基盤整備の質的低下の可能性。
*シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4カ国の協定。特段の定めがない限りすべての関税を撤廃。実際は全品目の約8割が即時撤廃。
※京大藤井研究室(藤井聡教授、中野剛志助教)がまとめた資料から作成

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